「震災の傷はいつか癒える」は間違い 君塚良一監督と原作者・石井光太が語る

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あるとき、千葉さんはポケットにしまってあった地図を出して、ボソっと「この遺体とこの遺体は夫婦なんだよ。なんで離れているんだよ」と言うんです。千葉さんは当時、膝を痛めていて自分で運べなくて、僕だけでなく、いろいろな人にそう言っていたんです。そうすると、千葉さんが言ってから少し経った後には、もう誰かが夫婦の遺体を動かしているんです。「やってほしい」と頼んでいるわけではないのに、です。それはみんなの「良心」がそうしたんだと思います。僕は遺体安置所でみた「良心」のような、人間誰しも共通に持っている「良心」は絶対にあると思っています。

「自分に何ができる?」そう思うだけでいい

君塚:映画『遺体』の舞台・釜石市で昨年11月、12月に、上映会をやりました。そのときはがれきの山などはなくなり始め、物質的な復興は始まったばかりでした。ただ、人の復興はというと、現地の人は「みんな疲れている」と言っており、進んでいない印象でした。震災報道が減ってきており、被災地が孤立していると感じているようです。それは報道の責任であると同時に、一人ひとりの日本人の責任だと思います。「自分に何ができるか――」ということを思い続けるだけでもいいと思います。それを思い続けることで、たとえばテレビ局はそれを感じて番組を作るようになるのではないでしょうか。

今回の『遺体』という作品は僕の中では特別な作品です。震災をモチーフに撮ったのではなく、震災の「ど真ん中」を撮りました。だから、君塚だったら震災をこう撮る、こう見るというのはまったくありません。「伝える」そして「残す」ということに力を入れた作品です。

石井:僕はものを書くという自分の役割の中で、被災地で傷が癒えることがない状況が、どのような状況だったかを伝えていければと思っています。僕は書くことが役割で、君塚監督は映画監督として映画を通して伝えることが役割です。現在、被災地でボランティア活動をされている方はボランティアが、たとえばロックバンドの方で義援金を集めることをされている人はそれが役割なのです。

僕は、自分の役割を全うする人たちがどれだけ多いかというのが、社会が豊かかどうかだと思います。全員が同じことをやっても仕方がありません。できるだけ多くの人が自分にできることをやることが重要なのだと思います。

映画『遺体 明日への十日間』http://www.reunion-movie.jp/

監督・君塚良一氏×原作者・石井光太氏の特別対談の全編は、Youtubeで観ることができる。

山本 智之 ライター/編集者
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