ビジネスとNPOの境がなくなる時
2010年3月、私は「黄金の三角地帯」として有名なタイ、ミャンマー、ラオス国境の「Doi Tung」地区を訪れました。タイの地元警察車両に先導されて登ってきた山の頂一帯は、以前ケシの栽培と麻薬の密造で悪名高い地域でした。
貧困にあえぐこの地域の農民を救うために1988年に立ち上がったのがプミポン国王の母、シーナカリン王太后です。以来、タイ王室関係者の手によるNPO「Doi Tungプロジェクト」は、コーヒー豆や花などの栽培農業、伝統工芸品の製造販売、観光、ショップ展開などを通して雇用促進と地域発展を支援してきました。
そんなNPOが私を呼んだのは「Doi Tung」をブランド化する必要に迫られてのことでした。「Doi Tung」はNPOですから、利益を上げることが目的ではありません。しかし、貧困地域の持続的発展をさらに推進するためには、再投資に回す資金を自ら稼ぎ出す必要があるのです。以前のNPOは寄付に頼ることが多かったのですが、プロジェクトを自律的に発展させてより多くの農民を支援したり、あるいはそのノウハウを海外で提供してグローバルな運動にしていくためには、資金が必要です。
そのための切り札がブランド育成です。同じスペック、同じ品質の商品であれば、より高いブランドイメージを持つ商品のほうが「たくさん売れる」「高く売れる」「長く売れる」といったメリットを持ちます。「Doi Tung」の運営にかかわる人たちは、プロジェクトの持続的発展のためのブランド戦略を構築しようとしていたのです。
「利益を上げてそれを再投資して事業を発展させる」という考え方は、民間のビジネスと何ら変わりはありません。NPOにもブランド戦略のような価値創造のノウハウが必要になっています。
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