ダイソンが独創的な製品を編み出せた理由 創造とは何もないところからは生まれない

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縮小

「この装置を小さくすれば、紙パックやフィルターがいらず、吸引力が下がらない掃除機ができるのではないか」――。そう考えたダイソンは、会社を辞め、自宅にこもって5年間、研究を進めたという。5127台をつくり、「チリ」と「きれいな空気」がうまく分離できる構造を模索した結果、今日のダイソンの掃除機の基本原理となるサイクロン構造が生まれた。

この原理を元に、ジェームズ・ダイソンは既存メーカーに紙パックのいらない掃除機の商品化を提案したが、実はここでも障害にぶつかる。大手メーカーは紙パックの販売を収益源のひとつとしており、紙パックのない掃除機に興味がなかったからだ。紆余曲折を経て、ダイソンは自分自身の会社を興し、商品化に成功した。

サイクロン掃除機の原理を生んだ「アナロジー」

拙著『深く、速く、考える。「本質」を瞬時に見抜く思考の技術』でも詳しく解説しているが、筆者は、ものごとの因果関係を図にした「因果関係マップ」というものをつくって、抽象化思考の能力をトレーニングし、「深く」かつ「速く」考えることができるようにする「深速思考」という思考法を教えている。その中で、ちょうど電気掃除機を例に話をしたことがある。

このときも因果関係マップを描いて、電気掃除機には、「吸入空気量」と「排気中のゴミ量」との間にトレードオフの関係、つまりどちらかの要素を良くすると、もう一方の要素が悪くなる関係があることが一目でわかると説明した。その原因は、フィルターの機能を兼用している紙パックの目が小さいほど、排気中に出るチリの量が減る反面、空気を通しにくくなってしまうということだ。

因果関係マップをつくると、「トレードオフ」はすぐにわかる。図中の「◎大」は値が大きくなるほどいい要素、「◎小」は小さくなるほどいい要素を表す

ところが、この話をした後に「因果関係マップを使っても、ダイソンのような『紙パックそのものが不要な掃除機のアイデア』は出ないのではないか。日本の電機メーカーはどうすればダイソンのようなアイデアが出せるようになるのか?」という鋭い質問が受講者から出た。

確かに、因果関係マップでモーター出力と排気中のゴミ量の間にトレードオフの関係があるのを知り、その制約条件の中で妥協案を出すことはできても、「紙パックそのものがない掃除機」という発想を出すことはできない。私自身、とっさのことで適切な答えに窮してしまったが、その後、よく考えてみたら、ジェームズ・ダイソンは、まさに先ほど述べたように、別の装置から「アナロジー」によってサイクロン掃除機の原理を発見したのだった。

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