ダイソンが独創的な製品を編み出せた理由 創造とは何もないところからは生まれない

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アナロジーとは、「類推・類比」と訳されるが、要は「たとえ話で理解する」「AとBとの間で似た構造を見つけ、Aのアイデアを借りてきてBに応用する」ということだ。ジェームズ・ダイソンは、製材所で使われている集塵機からアイデアを借りてきて、「アナロジー思考」によってサイクロン式掃除機を開発したわけである。

このように、「創造」の本質とは、何もないところから斬新なアイデアを考え出すことではなく、「他の領域からアイデアを借りてくる」ことにある。

アインシュタインが語った「創造」の本質

「アイデアを借りてくる」というと、なんとなく「模倣する」とか「パクる」と似たような語感があり、ネガティブに捉えられがちだが、天才でも、他の領域からアイデアを借りてきて、それを組み合わせることで発想していることが多い。

たとえばアルベルト・アインシュタインは、「創造の秘密は、アイデアの源を隠すことだ」と言ったという。あのアインシュタインですら、他の領域からアイデアを借りてきて、相対性理論など、物理学を根底から変える理論を考え出したということである。

「アイデアの源を隠す」とは、つまり、いま考えている分野とかけ離れた分野のアイデアを借りてくるということ。つまり、意図的に隠しているのではなく、あまりにも遠くから借りてきているので、誰もそのことに気づかないということだ。

ジェームズ・ダイソンの勤務先の隣に偶然にも製材所があり、その屋根に巨大な集塵機が設置されていたことは、サイクロン式掃除機の発明のきっかけになったことは間違いない。しかし、高さ数メートルもある集塵機の原理が掃除機に使えると見抜くことは、そう簡単ではない。

ダイソンは、日ごろから「掃除機のフィルターをなくせないか」と必死に考えていたからこそ、集塵機を見たときに、その類似性に気づいたのだ。

コンビニチェーンが他のコンビニからアイデアを借りてくるのは単なる模倣であり、誰でも思いつく。しかし、たとえばファストフード業界とか運送業界といったサービス業の別の業界からアイデアを借りてくれば、よりイノベーティブなアイデアが出やすい。さらには電子機器業界や医療機関、NGOといったまったく別の業界・領域から借りてくれば、もっと画期的なアイデアが出やすくなるだろう。

ビジネスの場で、実際にこうした発想を行うときは、「本質をつかんで抽出する」という作業の後、先ほど述べた「アナロジー思考」を行う。

前者の本質抽出は、「儲かっている会社の儲かる理由をつかんで因果関係を図に落とし込む」ということを行い、後者のアナロジー思考は、①「抽象レベルでの類似性に気づく」と、②「遠くからアイデアを借りて、自分野に適用する」という2つの段階で思考するとよい。

①は、ダイソンが自分の問題を「フィルターを使わずにゴミと空気を分離する」と抽象化し、大型集塵機メーカーがすでに解決していた問題が、抽象レベルでは掃除機の問題と同じだと気づいたことに相当する。②は、集塵機の構造をヒントに、掃除機に使えるような大きさ、性能のサイクロン構造を開発することだった。このように、アナロジー思考を使いこなすには、具体と抽象の世界を自在に行き来する思考、トヨタでいう「ズームイン・ズームアウト思考」が必要なのだ。

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