激烈格差!甲子園「都道府県」勝率ランキング 涙のドラマを生む「甲子園の魔物」の正体

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そして最後に野球は、他のスポーツと比べて格段に審判の役割が大きい。なぜなら判定が試合の流れに決定的な影響力を持つからだ。たとえば、ピッチャーが“ストライク”と思って投げた決め球が“ボール”と判定されたことにより、投球の幅が狭まり、次の好球を痛打されるということは野球ではしばしば起こる。実際、夏の甲子園大会ではかつて、審判の“ボーク”判定によって勝負が決したこともある。

プロ野球優勝チームでも45%負ける

このような不確実性ゆえに、プロ野球ではリーグチャンピオンを決める“ペナントレース”は年間143試合も行っている。このことの意味を数字で示してみよう。たとえば、2015年のセントラル・リーグを制したヤクルトの勝率は0.539、同じく最下位のDeNAは0.437である。優勝チームでも45%以上負けるのが野球である。

仮にこの数字が両チームの実力指標だとみなしたとき、143試合の勝ち数の標準偏差はそれぞれ5.92と5.91となり、DeNAがヤクルトより上位になる確率は1.3%である。ところが、試合数を10として同じ確率を求めると13.7%に跳ね上がる。つまり、試合数が少ないと不確実性が増し、実力差が結果に結びつきにくくなるのである。

さて、この不確実性の存在を頭におきつつ高校野球を眺めてみよう。プロ野球が不確実性をなるべく低くしようと工夫しているのに対し、高校野球はむしろ高くなるようにルール設定をしているという特徴がある。

そのひとつ目は、負ければ終わり、一発勝負のトーナメント戦を採用している点だ。野球というスポーツの特性から、どんなに強いチームでもその日のコンディションによってたまたま負けることもある。プロ野球のように数多くの試合をすれば実力差が現れるだろうが、たった1試合では何が起こるかわからない。先の例のように不確実性が増すのである。

次に、高校野球ではトーナメントの組み合わせをくじ引きで決めている。地方大会のような“シード校”という扱いはしないのである。その理由としては、出場校はすべて地方大会のチャンピオンであり、その扱いに差を設けるのは各都道府県民に対して失礼という考え方だろう。

とはいえ、地方大会での実績をみれば、代表校の間に相応の実力差があるのは当然と言える。だとすれば、たまたま1回戦で強豪校と当たれば1勝もできずに甲子園を去らなければならない一方、くじ運がよければ前評判のそれほど高くない高校でも勝ち残れる可能性が出てくる。

そして最後の要素は、甲子園大会では野球部員数に関係なく登録選手数は18人に制限され、しかもよほどのことがない限り入れ替えが認められないという点だ。高野連がこうしたルールを設けている理由は2つ考えられる。

ひとつ目は、野球部員を集めやすい学校とそうでない学校の実力差をできる限り埋めたいということである。名の知れた強豪私立校ならば全国から野球のうまい中学生を集めることもできるだろうが、税金で運営されている公立校では野球ができるという理由だけで特待生や他県からの生徒を入学させるのは難しい。人数制限をすることで、野球部員を集めにくい公立校にも勝つチャンスを与えようという配慮である。

もうひとつの理由は、登録人数が少なければそれだけ試合中の選手のやりくりがしづらくなり、監督による采配の重要度が下がるという点である。高校野球の主役はあくまで選手であって、監督は野球の指導者に過ぎない。

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