円安にもかかわらず 輸出が減少
一般に、円安になれば、日本の輸出の価格競争力が上昇するので、現地通貨建ての輸出額は増える。さらに、現地通貨建て輸出額が一定でも、円建ての輸出額は増える。この二つの要因によって、円安になれば円建ての輸出額は増えるはずである。それにもかかわらず前述のような現象が起きているのは、現地通貨建ての輸出が大きく減少しているからだ。
これを、日本貿易振興機構(JETRO)が作成しているドル建て輸出統計の12年11月単月の計数で見ると、次の通りとなっている。
全世界への輸出は、前年同月比で7・1%減少した。対中国輸出(輸出総額に占めるシェア17・2%)は、17・2%減少した。これだけで寄与度が3・3%減と、全体のほぼ半分を占める。対欧州輸出(シェア11・0%)は23・4%減少した。この寄与度は3・1%減だ。
品目別で見ると、一般機械が13・2%減(寄与度2・7%減)で、うち建設用・鉱山用機械が31・4%と極めて大きな減少を示す。荷役機械(13・5%減)、輸送用機器(13・0%減)なども大きい。そのうちのバス・トラックは、24・8%減だ。対して、原材料製品は寄与度0・7%減、電気機器は寄与度0・2%増だ。
以上のことから、日本の対中輸出の減少は、中国の輸出産業の減速によるのではなく、中国における建設投資活動の変化によるところが大きいと推察される。
そこで12年における中国の固定資産投資を見ると、大きな変化が見られる。額では増加を続けているものの、伸び率が11年より5%ポイントほど低下しているのだ。これまで急激な増加を示していた鉄道や道路への投資は、1桁の伸びになってしまった。これは、08年のリーマンショック後に取られた中国の景気刺激策が終了したことに伴うものだ。
12年の中国の固定資産投資額は、36兆元だ。日本円では、529兆円に及ぶ。これは、国民経済計算ベースでの固定資本形成ではなく、土地の購入費(中国の場合は長期賃借権取得費)なども含んだものだが、この5%は26兆円という大きな額になる。
高速道路や新幹線の建設が短期間のうちに進められ、一応の水準に達したと考えられるので、今後は過去数年のような急拡大はないと考えるのが自然だろう。また、この期間には、金融緩和が行われて、住宅建設も急拡大した。しかし、それで住宅価格が高騰したため、金融引き締めを行わざるをえなくなった。そして、住宅投資も伸び率が低下した。
こうしてみると、中国の投資増加率の低下は構造的なものである。円安が進行していても日本の対中輸出が減少するのは、このためだ。そして、09年から10年頃のような成長は再現しないと考えるべきだ。
このことは、日本経済のマクロバランスに大きな影響を与える。仮にこれによる総需要の落ち込みを財政支出拡大で補うならば、1回だけでは不十分で、継続する必要がある。それは、国債発行の継続的な増加を意味する。それによって金利が上昇すれば、国債を大量に保有する金融機関に重大な影響を与える。安倍経済政策も株式市場も、こうしたことへの配慮がないように思われる。
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