金融緩和しても、2%の物価上昇は実現できない 次期日銀総裁が背負う十字架

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「大胆な金融緩和を行う」と言われる。しかし、金融緩和しても、実体経済を活性化することはできない。それどころか、マネーストックさえ動かせない。これが、日本の量的緩和やアメリカのQEの経験から分かったことである。

ただし、金融緩和すれば、投機資金が供給されるので、資産価格のバブルを煽ることはできる。現在、日本の株式市場で起きているのは、まさにこれだ。

資産価格は、期待の変化で動く。連載の第7回でこのように述べた。言うまでもないことだが、期待するだけで価格が動くわけではない。期待の変化に応じて人々が資産を購入するから、価格が上昇するのだ。

ところで、資産の売買には元手が必要だ。他の資産を売って資金を調達する場合もあるが、多くの場合、借り入れで資金を調達し、自己資金とあわせて投資をする。これを「レバレッジド投資」という。借り入れで投資総額を膨らますと、自己資金の期待収益率が上昇するのである(ただし、リスクも増大する。これについては、拙著『金融危機の本質は何か』東洋経済新報社を参照)。

ところで、借り入れの容易度は、金融市場の状態によって異なる。金融緩和下では、資金を借りやすい。しかも、安い金利で借りられる。したがって、投機取引を行いやすくなるわけだ。

借り入れを原資とする投機は、条件の変化ですぐに変化してしまう不安定な投機である。なぜなら、多くの投資は、短期で資金を調達しているからだ。投資対象の市場価値が下落すると、借り入れの担保条件を満たせなくなる。そのため、売却して資金を回収し、返却せざるを得なくなる。こうして売りが増えるため、市場価格が暴落する。

2007年のアメリカ金融市場で、それが顕著に起きた。短期で調達した資金を、サブプライムローンの証券化商品(MBS)に投資していた。しかし、MBSの格付けが引き下げられたため、前述のプロセスが起こり、MBSの価格が暴落してしまった。これが08年のリーマンショックに至る金融危機のメカニズムだ。

そのときにアメリカから逃避した資金が、南欧国債(ギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルなどの国債)に流入し、ここでバブルを引き起こした。しかし、ギリシャの財政危機が暴露されたことをきっかけに、南欧国債から逃げ出し、今度は日米独の国債に流れ込んだ。これが現在に至るまで続いている。

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