消費者物価はフロー価格なのでバブルを起こせない
ところで、政府と日本銀行は、2%という高い物価上昇率を目標としている。金融緩和をすれば、これまで述べた資産価格と同様に、バブルを起こせるのだろうか?
それは、できない。なぜなら、消費者物価指数を構成する物価のほとんどは、フローの価格であるからだ(とりわけ、サービス価格がそうである)。したがって、予測に影響されることは、ほとんどない。前述のメカニズムが働くのは、為替レート、株価、不動産価格、国債価格などのストック価格なのである。
このことは、実際のデータでも確認できる。図では、ストック価格の代表として為替レートをとり、これと消費者物価指数を比較した。為替レートは大きく変動しているのに対して、消費者物価がほぼ一定であることが分かる。ストック価格として株価や国債の価格をとっても同様だ(日本の不動産価格はあまり大きく変動していないが、アメリカの住宅価格は大きく変動している)。つまり、日銀法に言う「物価の安定」は、ほぼ実現されていると考えてよい。
もっとも、ストック価格は消費者物価とまったく無関係ではない。円安で輸入物価が上昇し、それが消費者物価指数に影響するからだ。事実、最近の円安でガソリンや軽油が値上がりし、生活や経済活動に影響を及ぼしつつある。さらに、LNG輸入価格の上昇は、いずれ電気料金に転嫁されるだろう。ただし、このルートでの影響は量的に限られている。
もちろん、大幅な円安になれば、影響も拡大する。過去のデータを見ると、輸入価格の10%上昇で、消費者物価が0・5%程度上昇している。また、輸入物価の動向は、ほぼドル/円レートの動向と等しい。したがって、消費者物価を2%上昇させるには輸入物価が40%上昇する必要があり、ドル/円レートが130円程度になる必要がある。それは、実現できないだろう。
なお、2%目標は、政府が作成するさまざまな見通しに歪みを与える。例えば、年金の財政検証(年金収支の長期推計)は、物価上昇率2%を仮定せざるをえなくなる。インフレスライドによって、年金支出も増大する。したがって、賃金が2%以上上昇したと仮定しても、保険料率も増やさなければならない。こうして、実態とは大きく異なる姿を描く必要に迫られるわけだ。
社会主義時代のソ連で、「君たちは働いたふりをしろ、われわれは給与を払ったふりをするから」というアネクドート(小話)があった。日本経済もそれに似てきた。次期の日銀総裁は、決して実現できない2%の物価上昇という目標を背負わされ、苦しむことになるだろう。
(週刊東洋経済2013年2月9日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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