無理な物価上昇は、預金流出を引き起こす 政府が行うべきは金融政策ではなく、産業政策

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仮に日銀が長期国債を無制限に買い入れるといった極端な施策をすれば、金利はある程度抑えられる可能性があります。しかし、それこそ大変な事態になるリスクがあるのです。

物価が上昇して金利が上昇しなかった場合、国民が持っている大量の金融資産はどんどん目減りしていきます。金利より物価の上昇率の方が高いわけですから、金融資産は持っているだけ損ということになり、現物を持つために国民の預金が大量流出する恐れがあるのです。

2月8日現在の10年物国債の流通利回りは0.75%程度です。預金金利はほぼゼロですが、消費者物価は下落していますから、超低金利であっても預金している方が得だということになります。ここで物価を2%に上昇させたのに市中金利がそれよりかなり低い状態のままだとすると、資産を現金で持つより土地や株で持つ方が得という状況が生まれ、預金の流出が止まらなくなるおそれがあるのです。

そこで銀行は、預金流出を食い止めるために、金利を上げようとします。ですから、実際には物価と金利はほぼ連動する動きとるのが自然な流れですし、そもそも、金利にはインフレを回避する保険のような働きがあるわけですから、それは当然のことなのです。

中央銀行による強い市場操作によって、物価を上昇させながら、ある程度金利を抑えることは可能かもしれませんが、これは非常に不健全な形の経済を作り出すことになります。
こんなことは、日本銀行は百も承知です。ですから、現在の長期国債の利回りとそれほどかい離のない1%の物価目標を立てるのであれば問題ないと思いますが、それを上回る2%という数字を立てることは、正直なところ理解できません。

もちろん、「2%」という目標を立てて期待インフレ率を高めることによって景気を刺激するという考え方もありますし、本音のところでは「2%」と言っておけば「1%」程度で落ち着くということかもしれませんが、本当に2%になれば、前回も指摘したように、政府の利払いが急増し、金融機関が保有する国債価格の評価損が兆円単位の膨大なものとなる恐れがあり、これは日本経済にとってはとても危険なことは容易に想像できます。

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