予測される物価上昇率が高まると、日本経済は活性化するのだろうか?
実質金利が低下して投資が増える可能性と、買い控えがなくなって支出が増える可能性を前回検討した。しかし、このいずれも実現しない。
もうひとつ考えられる可能性は、インフレ予測の高まりで円安が進み、これが日本の輸出を増やすことだ。いま、株価が上昇しているのは、こうした思惑によると考えられる。では、株式市場のこの思惑は実現するのか? 以下では、これを検討しよう。
簡単化のため、日米とも物価上昇率はゼロで、実質金利はゼロ(したがって名目金利は両国でゼロ)である場合をまず考えよう。為替レートは1ドル=80円とする。日本で800万円する自動車とまったく同じ車がアメリカでは10万ドルで生産されているとすれば、日本から輸出しても10万ドル(輸送費等は無視)になるので、貿易は均衡する。
ここで、何らかの理由により、日本の物価が1年後にはいまより10%高くなると予想されたとする。すると、前回述べたフィッシャー方程式によって、日本の名目金利は10%になる。
したがって、金利平価式によって、来年のドル/円レートは今より10%円安の88円になる。このように、予想インフレ率が高まれば、確かに円安になるのだ。では、これによって、1年後の日本の自動車の価格競争力は高まるだろうか?
そうはならない。理由は次のとおりだ。日本の物価上昇率は10%なので、自動車は1年後には880万円になっている。為替レートは88円になるので、アメリカに輸出すれば10万ドルになる。他方、アメリカでは物価上昇率がゼロなので、この車は依然として10万ドルだ。だから、日本から輸出した車が格別有利になるわけではないのである。
つまり、インフレ予測の高まりを反映した円安は、日本の輸出の価格競争力を高めることにはならない。だから、仮にインフレターゲットを導入してインフレ予測が高まり、それによって円安が実現したとしても、日本の輸出が増えたり、輸出業者の利益が増えたりすることにはならないのだ。
なお、実質金利に変化がなければ、金利差は物価上昇率の差に等しいので、為替変化率は物価上昇率の差に等しくなる。これで計算される為替レートを「購買力平価」という。
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