実質為替レートは格別円高でない
「日本の物価上昇率がアメリカより低いのに円高にならなければ、日本の輸出の価格競争力が不当に高くなる」と述べた。このような事態を正確に捉えるために、「実質為替レート」という概念が使われる。
上に説明したように、為替レートが金利平価どおりになっても価格競争力は高まらない。しかし、現実のレートがそれより円安になれば、高まる。
前述の例でいうと、1年後の為替レートが78.4円なら、価格競争力に変化はない。つまり、実質的には変わりはない。しかし、80円であれば、2%だけ価格競争力が高まったことになる。
つまり、為替レートが実質的に2%だけ円安になったわけだ。このことを、最初の年を100とする指数で表現して、「名目レートが78.4円なら実質的な為替レートは100のまま不変だが、80円なら2%だけ円安になって98になった」と表現することにしよう。この指数を「実質為替レート指数」と呼ぶ。
ドル以外のさまざまな通貨も含めた実質レートの平均を「実質実効為替レート」という。この値は、日本銀行により計算されている。図には、名目のドル/円レートとともに、それが示してある。
2000年から07年頃まで、日本の物価上昇率が低いにもかかわらず、名目レートはほぼ一定だった。したがって、実質レートは円高になり、指数はどんどん低下した。00年頃に130程度だった指数は、07年には80程度と、実に40%近くも円安になった。
このため、アメリカでは、日本車が圧倒的な価格競争力を獲得し、「道を走っている車はすべて日本車」という異常な事態になったのである。これは、円キャリー取引が進んだために、金利平価式が成立しなくなってしまったからだ。
経済危機後に円キャリー取引が逆転し、名目レートが円高になり、実質レートも円高になった。しかし、00年頃に比べると、まだ3割程度円安だ。
だから、「いまは異常な円高だから日本の輸出が伸びない」というのは誤りなのである。
(週刊東洋経済 2013年1月19日号)
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