円高になるのは、日本の物価上昇率が低いため
以上の説明では、簡単化のために、日米の物価上昇率をゼロとした。問題の本質はこの仮定下でも完全に説明されているのだが、この数値例はあまり現実的でないと考えられるかもしれない。実際には、アメリカでは年率2%程度の物価上昇が続いているからである。
そこで、もう少し現実的に、次のように仮定しよう。物価上昇率は、日本でゼロ、アメリカでは年率2%。実質金利は、両国で年率1%。現在の為替レートは1ドル=80円。
この場合には、名目金利は日本で1%、アメリカで3%になるので、金利平価式によって、来年の為替レートは、現在より2%円高の78.4円になる。アメリカでは、自動車は2%値上がりして10.2万ドルになる。日本では依然として800万円だ。これをアメリカに輸出すると、10.2万ドルになる。
つまり、円高にはなるけれども、日本車の価格競争力が落ちるわけではないのだ。「円高が進むので、日本からの輸出がどんどん不利になる」と言っている人が多い。しかし、いまの数値例が明確に示すように、物価上昇率の差を反映して円高が進む限り、価格競争力に変化は生じないのである。
仮に1ドル=80円のままであれば、貿易が均衡しなくなってしまう。なぜなら、日本で800万円の車をアメリカに輸出すると10万ドルになり、10.2万ドルのアメリカ車より安くなってしまうからだ。日本車を10.1万ドルで売れば、アメリカ車を駆逐していくらでも売れる。しかも為替レートが78.4円の場合より、利益が0・1万ドル増える。
では、日本の物価上昇率が10%になると予想された場合にはどうなるか? フィッシャー方程式によって、日本の名目金利は11%となり、アメリカより8%高くなる。したがって、金利平価式によって、来年の為替レートは、いまより8%円安の86・4円になる。
ところが、1年後の自動車の価格は、日本で880万円、アメリカで10・2万ドルなので、日本車をアメリカに輸出すれば10.2万ドルになる。したがって、日本の輸出品の価格競争力が高まるわけではない。つまり、日本でインフレ予想が上昇すれば、円安になるにもかかわらず、日本からの輸出が増えたり、利益が増えたりはしないのだ。
いまの株価上昇が、「将来デフレ脱却できるから円安になり、それが輸出を増やす(あるいは輸出業者の利益を増やす)」という思惑によるのだとすれば、それは実現しない。
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