安倍晋三内閣は、インフレターゲット(金融政策における物価上昇率目標)を、1%から2%に引き上げることを計画している。
諸外国でインフレターゲットを設定するのは、現実の高いインフレ率をターゲット値まで引き下げたいためだ(フィリピンだけが例外)。
しかし、日本では逆に、現実の低いインフレ率をターゲット値まで引き上げることが目的とされている。そうすることによって、経済活動が活性化するというのだ。
では、経済活性化は、どのようなメカニズムを介して実現するのだろうか? これについての説明は必ずしも明確ではないが、次の二つが考えられる場合が多い。
第一は、「実質利子率の低下を通じて投資支出が増加する」というものだ。この考えの基礎となっているのは、次の式だ(これは、「フィッシャー方程式」と呼ばれる)。
名目金利=実質金利+物価上昇率
最後の項の物価上昇率は、将来の予想値(期待値)である。そして、これが高まると、実質金利が低下し、投資が増えるというのである。
確かに、住宅ローンなどを固定金利で契約している場合には、左辺が固定されているので、物価上昇率(の予測値)が高くなれば実質金利は低下する。しかし、このローンは過去になされた住宅建設に係わるものなので、実質金利が低下しても、それで投資が増えるわけではない。
より重要な点は、経済全体で見れば、物価上昇率(の予測値)が変化した場合に変化するのは、実質金利でなく名目金利であることだ。経済全体の実質金利は、経済の諸条件で決まっており、物価上昇率によって影響されるものではない。
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