インフレ期待が高まっても買い急ぎは起こらない
インフレ期待上昇が、経済を活性化させる理由として第二に言われるのは、「消費が繰り延べされなくなって、支出が増える」というものだ。これは、次のようなことである。
デフレ下では、将来の物価水準が現在より低下するので、いま買うより将来買うほうが安く買える。だから、人々は現在の支出を控えてしまう。それに対してインフレ期待が高ければ、いま買うほうが安く買えるから現在の支出が増える。その結果経済が活性化する。
しかし、この考えも誤りである。先に述べたように、インフレ期待が高まれば、金利が上昇するからだ。
例えば、コーヒー豆が100グラム1000円であり、1年後にも1000円だとしよう。簡単化のために、名目金利はゼロだとする。この場合、現在買っても将来買っても、1000円で買えるのは100グラムだ。
ところが、インフレ率が10%に高まり、コーヒー豆100グラムが1年後には1100円になるとしよう。いま買うほうが有利だろうか? そんなことはない。名目金利がフィッシャー方程式によって10%に上昇するからだ。だから、いま買わずに1000円を貯蓄すれば、1年後には1100円になる。したがって、コーヒー豆は100グラム買える。
このため、人々は買い急ぐことはない。だから、インフレ期待の上昇がコーヒー豆の現在価格を引き上げることもない。
このように、「デフレが予想されると需要が減る」というのも、「インフレ期待が高まれば支出が増える」というのも、誤りだ。インフレ期待の上昇に合わせて名目金利が上昇するので、いつ買っても実質的に同じものが買えるのである。
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