相対価格と絶対価格の区別が重要
述べたこととは異なり、天候条件の影響で、コーヒー豆だけが来年値上がりすると予想されるものとしよう。その場合には、現在買うほうが得だ。このときは、金利が変化しないので、貯蓄しても来年1000円にしかならないからだ。前の場合との違いは、コーヒー豆の相対価格が変化することである。
しかし、インフレターゲットで問題にされているのは、何か特別な商品の相対価格ではなく、一般的な価格水準である。だから、それが変化すると、利子率に影響を与えるのである。そして、利子率の変化で調整されてしまうので、現在の価格水準に影響が及ばないのだ。結局、
将来価格=(1+名目利子率)×(現在価格)という関係が成立する(この式は、「名目金利で割り引いた将来価格の割引現在値は現在価格に等しい」と表現することもできる。先物取引をしている人は、この関係が裁定条件式であることを知っているだろう)。先に述べたことをこの式を用いていえば、「将来価格の見通しが上昇したとき、名目利子率が上昇して調整され、現在価格には影響が及ばない」ということである。
実は、フィッシャー方程式で実質利子率をゼロと置けば、この関係が導かれる(コーヒー豆は保存していても増えることはないので、実質利子率はゼロである)。だから、両式は本質的に同じことを述べている。
前回、ストック価格は予想によって変動すると述べた。総選挙後の為替レートや株価に、この現象が実際に表れている。ただし、「ご祝儀相場」である可能性も強い。自民党の圧勝は選挙前から予測されていたことなので、すでに織り込み済みだったはずだ。予想以上の圧勝だったので選挙前より株価が上がったのだが、今後どう推移するかは、新政権の打ち出す経済政策に大きく依存する。日本経済の厳しい条件に改めて目をやれば、かなり早くメッキが剥げてしまう可能性が高い。
インフレが予想されるとしても、現実に起こるのは、経済の活性化ではなく、前回述べたように、資本逃避である。ギリシャ、イタリア、スペインは、共通通貨ユーロに守られているので、資本逃避が起こっても、為替レートの減価を通じるインフレには見舞われない。しかし、ユーロ圏を離脱すれば、直ちに通貨減価とインフレに襲われるだろう。それは、共通通貨で守られていない日本の未来図でもある。
(週刊東洋経済 2013年1月12日号)
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