ベントレー、3500万円超の車は何がスゴいか 旗艦の新型「ミュルザンヌ」に乗ってみた

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運転席と助手席のシートバックには持ち歩けそうにはないサイズ、正確には10.2インチの液晶スクリーンが隠されていて、これまたスイッチひとつでスーッと現れたり消えたりする。

5本スポークにBマーク!ガラスの工芸品

左右分離した後席の間のバルクヘッドには冷蔵庫があって、冷えたシャンパーニュ……じゃないのは残念でしたが、よく冷えた水のペットボトルが2本積んであった。グラスも置いてある。取り出すと、底にベントレーの星形ホイールのスポークが刻まれている。岡本太郎なら間違いなくこう言っただろう。「グラスの底にホイールがあってもいいじゃないか!」

ノーマルのミュルザンヌのホイールベースを250mm伸ばしたEWBの静粛性と乗り心地ときたら、現時点でベストだと思う、とベントレーのエンジニアは後ほど語ったけれど、現実とは思えぬ非日常的異次元感覚というかキツネの嫁入りというか、筆者はまったくもって夢心地であった。

なにもかも違う

いくら足を伸ばしても運転席に届かない自分の両足を組み替えながら、イギリス人のように囁くような小声でショーファー氏に話しかけた。時速70kmで走り続ける静謐(せいひつ)な空間の空気は2mぐらい離れた彼の耳へと私の質問を届けた。彼はサンサルバトル出身で、奥さんとラテンアメリカで出会い、奥さんの故郷であるインスブルックに引っ越してきて、はや15年。普段はBMWに乗っている。BMWと較べて、このクルマはどう? と尋ねると、こう答えた。「なにもかも違う」

さもありなむ。でも、どう違うんだろう……。それは明日のお楽しみなのであった。

翌朝、目を覚ますと、一瞬自分がどこにいるかを忘れた。そこは昨年のドイツG7サミットで使われた、シュロス・エルマウというホテルの一室であった。なんてVIP待遇なんだァ!およそ民主主義によって到達できる最高権力者たちが集いし同じ宿に泊まらせていただくなんて……。ちなみにシュロス・エルマウには小さな子ども連れのファミリーも泊まっていて、気さくで格式張っていない雰囲気が好ましい。

この日、2台の新型ミュルザンヌをドライブできた。すなわち、フツウのミュルザンヌと、その高性能版の「スピード」である。旗艦ミュルザンヌは、パワートレインを含めたほとんどをクルーの本社工場で手づくりしている。しかも、熟練職人たちが1台400時間以上を費やして!人件費イコール・コストだとすれば、高価なのは当然だ。注文生産なのはもちろん、「ザ・ベスト・カー・イン・ザ・ワールド」をうたった時代の自動車づくりを現代に伝える、自動車のカタチをした工芸品なのだからして。

現行ミュルザンヌのデビューは2009年。6年目を迎えて、ベントレーはこのアンチ工業化製品のモデル・レインジを広げ、拡大成長路線を採択した。昨年、正式発表した同社初のSUV、ベンテイガを市場は肯定的に迎えており、フル生産に入る今年は好調な業績が見込まれている。ポルシェがSUVで稼いで、スポーツカーにいっそう磨きをかけているように、ベントレーはベントレーにとっての911に磨きをかけようというのである。

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