新日本プロレスの経営改革を取材してみた グローバルエリートがリング・イン

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さて、そのライブに当たる会場での試合で私が座らせてもらえないほど観客が多く、プロレスが復活の兆しを見せているわけだが、それはどのようにして成し遂げられたのだろうか。プロレス業界に関して、その歴史と経営改革の観点から探ってみたい。

世相を反映し変化してきたプロレスのコンセプト

まずプロレスって何なの、という方に向けて業界の定義と歴史を概観したい。

プロレスとは格闘技と異なり強さだけを競うものではなく、観客を盛り上げるために戦うというのが現実に近い。定義自体をあいまいにすることが選ばれてきたのでプロレスに強さを求める層、楽しさを求める層など需要のタイプが混在するためレスラーのキャラクターや“試合内容”も多様になるが、基本的にはファイティングエンターテメントという大きなくくりでいったん理解していただ頂きたい。そしてエンターテインメントの中身であるが、これは世相を商品に反映させることで時に全国民を巻き込む一大ブームを巻き起こしてきた。 

そもそもプロレスは、敗戦に沈む日本人が巨大な欧米人と戦いマットに沈める“精神的カタルシス“の役割を果たしながら一大国民的産業に成長し、またその中継はテレビを普及させるうえで決定的なキラーコンテンツの役割を担った。ただ、日本が第二の経済大国になる過程で欧米人に追いついた感のある国民の熱狂的な関心は薄れ、力道山などスター選手なきあとブームは沈静化した。

しかし1980年代、アントニオ猪木のIWGPをコンセプトとしたプロレス最強をうたった海外強豪選手との“異種格闘技戦”は、折しもエズラ・ボーゲル氏の語ったジャパンアズナンバーワンの時代と重なり、日本人が世界最強の称号を目指すという大きなストーリーで国民的なブームを博した。プロレスが表現する内容には世相が色濃く反映されており、冷戦時代はソ連のレスラーを呼んだり、イラク戦ではアラブ人に扮した悪役レスラーを正義のアメリカ人レスラーが倒したりと、どの国でも国際政治のメタファーとしての機能で大衆の関心を集めてきた。

90年代にバブルがはじけ日本の長期間の経済停滞が始まるのと時を同じくして、プロレス界の長期衰退の歴史が始まった。日本のさまざまな分野で見られているように、レスラーは高齢化が進み新陳代謝が進まなかった。また総合格闘技やK1といった外部からの競争にさらされ、プロレスに最強を求めたファンは去っていった。さらにアメリカのWWEには、プロレスにエンターテインメント性を求めるファンが奪われた。

そんな中、最大のスポンサーであったテレビ局の経営難とプロレス自体のメディア露出の低下も相まって、マスメディアコンテンツとしての価値は落ち、一時50億円に迫るとも言われた売り上げは実に10億円程度に落ち込んだ。

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