夏野剛(上)「オタクが100人のエリートに勝つ」 IT・ネットが変えた個人と組織の関係

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なつの・たけし
1965年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。東京ガス、ハイパーネットを経て、97年9月、NTTドコモに移籍、松永真理氏らと「iモード」ビジネスを立ち上げる。08年6月に退社、同年7月よりドワンゴの取締役に就任し「ニコニコ動画」の黒字化担当として活躍。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授、トランスコスモス社外取締役などを兼務。

1人のリーダーが、みずからの組織に影響力を及ぼせる範囲も大きく拡大しています。今までは大企業の社長であっても、1人の社長が直接アクセスできる人の数は、100人ぐらいしかいなかったので、ピラミッド構造をつくっていった。経営幹部100人の下に100人の管理職、その下にまた100人・・・という具合です。そうやって、数十万人の大きな巨大メーカーなどが出来上がっています。でも、今は違います。社長がダイレクトに数十万人の従業員にメールを送れます。

――実際に大企業で、そういうコミュニケーションを取っている経営トップは?

やっていない人がほとんどじゃないですか。新たな統治の形態とか、新たなリーダーシップの時代に入っているのに、そのツールであるネットやIT、メールを使いこなせていない人のほうがまだ多い。僕はこれが日本の経営や経済、政治のリーダーシップが弱い最大の原因だと思っています。

ITは戦国時代の鉄砲だ

――では、これまでITを活用してこなかったリーダーが、いきなりできるようになりますか。

今、現在みずから活用してない人がいきなり活用するのは不可能です。今の日本の経済界、政界の中心は60歳プラスマイナス5歳。団塊前後の人が多いが、残念ながら自分が実務をやっているときにITがない時代の人たちなので、みずからの情報収集に慣れていない人が多い。もちろん自分でやる人もいて、新しいことを試す人もいる。全員が全員そうだとは言わないが、大多数は身についてない人。ここは早く代替わりしないと組織が滅びる。

ITが出てきたというのは、戦国時代に鉄砲が伝わったのと同じことなんですよ。戦国時代に鉄砲は万能でなく、不便なモノでもあった。火縄銃で弾を撃つためには、筒を掃除して弾を込めて火を点けるという作業が必要でした。織田信長は自分で試して、何がいい点で何が悪い点かを自分で把握して、3列に並んで1発目を打っている最中に2陣目が用意して、3陣目が掃除している、っていうモデルを自分で組み立てて、それを戦法に組み込んだんですよ。

既存の戦い方とか見識、判断力、経験。こういうものを持っているリーダーが新しいものを自分で試して、どう活用したらいいかというのをやったから、ああいう戦い方が出てきた。ポイントは信長軍と戦をして負けた武田勝頼軍も、同じように鉄砲を持っていたことです。信長は鉄砲を独占していたワケじゃないが、勝頼は使い方が及ばなかった。鉄砲を用意して待っている信長軍に、いちばん優秀な騎馬隊を最初に投入しちゃったワケです。使い方が及ばず、騎馬隊が新しいモノにやられた。

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