国民負担で延命している東京電力(上) 政府はなぜ破綻させないのか

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東電の平成22年度の月商を計算しますと、約4200億円となりますから、同年度の「現金及び預金」1801億円は、月商の約0.4カ月分しかないことがわかります。つまり、震災前の平常時はそれだけしか現預金を持っていなかったということです。

なぜ、それでも会社を回すことができたかというと、電気事業は売掛金が少ないうえ、収益のぶれがほとんどないという非常に安定した業種だからです。

さらに付け加えれば、それゆえ「いざ」という場合には銀行からすぐに融資を受けられます。

ですから、通常の状態であれば、電力会社は一般企業より自己資本比率が少々低くても、極端に手元流動性が少なくても、潰れる可能性が極めて低いのです。原発事故さえなかったら、東電が破綻するかもなどと考える人は誰もいなかったのではないでしょうか。

しかし、どうしても不可解な点があります。先ほど少し触れましたが、原発事故という大惨事が起こり、これからどれだけの損失が出るかわからないという状況の中で、一般的には、銀行が2兆円という巨額の資金を長期で貸すことはありえないからです。

ああいった危機的状況では、せいぜい貸しても3カ月の短期にするのが普通でしょう。JALやシャープがしんどい状況になったときには、銀行は長期の貸し出しを短期にシフトしました。それが普通です。ではなぜ、東電は巨額の融資を受けることができたのでしょうか。私は、政府が銀行に対して、融資に対する何らかの実質的な保証をしたのではないかと考えています。

 逆に言いますと、だからこそ、政府は東電を破綻させたくない、ということでしょう。東電を破綻させてしまうと、この約2兆円という巨額の借入金もすべて金融機関が負担しなければならなくなります。

さらに言えば、もし実際に東電が破綻した場合、銀行や当時の政府の意向が世に出てきてしまう恐れがあります。そうなったら、政権に大きな打撃を与えることは間違いありません。東電の財務内容からは、このような思惑が読み取れるのです。

次ページ長期借入金には政府などの思惑が見え隠れする
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