発送電分離、今の議論は拙速すぎる 論争!発送電分離

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――後藤美香・電力中央研究所 社会経済研究所上席研究員に聞く

「発送電一貫」「地域独占」「総括原価方式」で特徴づけられる日本の電力システム。より安価で安定的な電力供給を実現するためにはどう改革すべきなのか。さまざまな立場の有識者に意見を聞くシリーズの第2回は、電力事業の共同研究機関である電力中央研究所の後藤美香・上席研究員にインタビューした。

システム改革委のポピュリズム的で拙速な議論に危うさ

――まず、これまでの電力システム改革専門委員会の議論をどう評価していますか。

私は卸電力市場の活性化と発送電分離の行方を中心に関心を持って見ているが、まず言えるのは、委員の方々が海外の事例を改革のモデルとして参照する際に、その内容を正確に把握されていないように感じることだ。情報が古かったり、間違っていたり、あるいは論点がズレていて感情論的になっていたりすることもある。

委員会のメンバー構成を見ても、電力の実情をよく知る電力業界の関係者が発言する機会が少なく、ややポピュリズム的というか、国民感情に迎合するような議論になっている。

電力会社も、今の体制がすべて正しいと思っているわけではなく、海外でも電気事業の改革・自由化は進展している。ただ、海外の状況がすぐに日本へ応用できるわけではないので、つねに慎重なスタンスを心掛けている。

――議論が誤った方向に進むことを懸念しているということですか。

そうだ。本来はもっと時間をかけて議論すべき問題も、少し急ぎすぎている印象が強い。原子力政策など国の電力供給の根幹、土台となるエネルギー政策が固まらない中で電力システム改革の議論が進んでいるため、根っこのないところで拙速な議論になってしまってはいないか。

海外の検証も評価が定まっていない部分がある。一部の国内メディアでは、米国ではすべて発送電が分離されていて、消費者にもメリットがあるとの報道も見受けられるが、それは間違っている。実際には半分くらいの州では昔ながらの体制(発送電一貫)を続けており、もともとそのような地域では電気料金水準が低いことに加え、発送電分離や自由化をしている州でも料金は上昇しているため、格差は縮小していない。

本来、競争導入が目的ではなく、需要家にどういうメリットがあるかが目的であるべきだが、日本での議論はまず競争導入ありきのように見え、目的と手段が逆転している気がする。

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