発送電分離、今の議論は拙速すぎる

論争!発送電分離

ごとう・みか●名古屋大学大学院経済学研究科修了。電力中央研究所入所。独ケルン大学エネルギー経済研究所や米オハイオ州立大学ビジネススクールの客員研究員などを経て、現在は電力中央研究所の社会経済研究所で国内外の電気事業制度改革の動向評価や定量分析に従事。専門はエネルギー経済、エネルギー政策。博士(経済学)。

――発送電分離や自由化の効果にも疑問があると。

海外の事例を見ると、発送電分離や自由化をやってすぐに発電の新規参入者が増え、競争が促進されたとは言いづらい。発電所を造るにはそれなりに時間とコストがかかるためだ。卸電力市場についても、自由化で参入者が増えて価格が下がるとの期待が大きかったが、実際には制度的な問題や燃料価格の高騰もあって、期待された効率化が達成できているかどうかは評価が分かれる。発送電分離したから即、電気料金が下がるわけではない。また、欧州では再生可能エネルギーが増えて、火力発電の利用率がどんどん低下し、収益性が見込めないことから、バックアップ電源としての火力の設備投資が進まないという事情もある。

供給の信頼度についても、もともと信頼度が高かったドイツは自由化、発送電分離後も高いままだ。一方、相対的に信頼度の低かったイタリアやイギリスはやはり低いまま推移している。市場に任せればシステムの信頼度が上がるわけでもない。

――電力システム改革専門委員会では発送電分離について、各電力会社の系統運用部門を広域系統運用者の地方機関として中立化する機能分離(パターン1)と、各電力会社の送配電部門全体を持ち株会社の下で分社化する法的分離(パターン2)のどちらかという方向性で議論されていますが、これをどう見ていますか。

欧州では、1996年の第1次EU(欧州連合)指令から2009年の第3次EU指令まで段階を踏んで、「会計分離」から「機能分離」、「法的分離」、最終的には「所有権分離」(第三者への送電部門売却)へと進んだ。それに加えて、多様な選択肢を残す意味で「ITO型」(送電資産を所有し、発電と小売り供給を行う垂直統合企業に子会社として帰属しているが、中立性を保証する特別な規制に従う独立送電事業者がITO)や、日本のパターン1に相当する「ISO型」(送電資産を垂直統合企業に所有させたまま、送電線の運用のみを中立的な独立系統運用機関=ISOに分離)も生まれた。さらに、それらとも違う選択肢として「第四の選択肢」も認められ、アイルランドやイギリスのスコットランドなどが採用している。

今回の電力システム改革専門委員会では「所有権分離」については議論せず、機能分離と法的分離のどちらかのオプションで行くという議論から始まっている。が、委員の方々のコメントを聞いていると、最初から所有権分離の導入を念頭に置いたものも多く、議論の範囲や前提に関して意思統一がなされていない印象を受ける。

国情に合った組織形態をステップ・バイ・ステップで導入すべき

――発送電分離に関して、どのような方向が望ましいと考えていますか。

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