発送電分離、今の議論は拙速すぎる 論争!発送電分離

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海外の事例を見てもケース・バイ・ケースで、この形態がベストとは言い切れない。エネルギーの賦存(潜在的な存在量)状況やマーケットの構造、企業組織のあり方や文化など、各国の事情によってフィットする形態は違ってくる。

たとえばドイツでは、株式会社の組織形態として早くから監督と執行の分離が行われてきた。具体的には、取締役会の役割と権限を、監査役会と執行役会の2つの機関に分け、それぞれの構成員の兼任を禁じ、監査役会が執行役会を監督するという2層型の構造になっている。また、監査役会は株主の代表と従業員の代表(労働組合含む)から構成されるなど、監督機関と経営陣を設置するITOを受け入れやすい土壌があった。その点、日本の監査役会設置会社では両者の区別はあいまいで、ガバナンスの構造がかなり違っているため、ITOのような組織形態を一足飛びに導入できるかは疑問だ。

また、パターン1かパターン2かという点については、英国のイングランド・ウェールズでは早い段階(90年の分割民営化時)から送電部門の所有権分離を行い、送電設備の所有と運用を行うNational Grid社が誕生しているが、スコットランドについては、送電設備を所有するスコットランドの会社と、運用のみを行うNational Grid社の間で、膨大な量の契約と規則に従って事業の連携を図ることでうまくいっている。一方、フランスの送電事業者であるRTE社(国営電力会社EDFの100%子会社)の話を聞くと、送電部門の運用と所有は一体であるべきという考え方だ。つまり、欧州の中でも各国の事情に合ったベストな形でやっており、どちらがいいのか一概には言えない。

日本ではこれまで垂直統合の形で、発電、送電部門が1つの会社組織の中にあり、システム全体の最適化が行われてきた。これをすぐに、需給が厳しい現在のような状況の下で分割して市場原理を導入しようとすれば、安定供給のベースが損なわれる懸念は否めない。もっと日本の実情に合った形で、ステップ・バイ・ステップで考えていくべき問題だろう。

もちろん、競争や市場原理の導入自体をすべて否定するものではない。ただ、発送電一体運営によるコスト面での経済性や設備投資の最適化、事故時の早期復旧などのメリットを抜きにして、競争導入のメリットだけを議論するのはバランスを欠いている。

発送電分離を先行して進めた欧州では、もともと発電設備が余っている状況にあった。ムダな設備が多いため、ある程度大胆な改革を進めても安定供給に問題を生じさせることなく効率化できた面はあるだろう。その点、日本では現状、電力需給が非常に厳しい状況にあり、改革の進め方が難しい。やり方次第とはいえ、十分な時間をかけてしっかりと議論してから進めるべきだろう。

長期的には技術進歩によって分離の効果が見込める可能性

――中長期的には、発送電分離を進める方向性に異議はありませんか。

将来的に長い目で見れば、蓄電池やスマートメーターなどの技術が発達・普及した段階では、分離することが望ましい選択肢になる可能性も否定できないと思う。それにより新規参入者が増え、市場が活性化する効果が見込めるかもしれない。

次ページ技術進歩に合わせ発送電分離を
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