公取が"注意"したキヤノン「灰色買収」の全容 東芝メディ買収に暗雲、富士フイルムは憤慨

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「同じことをする会社が今後現れたら、クロと考える」と明言した品川氏

それは、キヤノンとTMSCの明確な結合関係(すなわち親子関係)が認定できなかったこと、今回は初のケースであり、明確なルールがなかったことの2点を、公正取引委員会の品川武・企業結合課長は挙げている。

今後同様のスキームが出たらクロだと明言したのは、「すでにキヤノンと同様のことがしたい、という問い合わせが企業からあるからだ」とも述べた。

ライバル・富士フイルムは口惜しさひとしお

TMSCの入札で残り、最後はキヤノンに敗れた富士フイルムホールディングスも、以下のコメントを即日発表した。

「この買収にフェアな姿勢で臨んだ我々にとって、アンフェアな競争であった。これが許されるなら、競争法が形骸化する。(中略)これが悪しき前例となり、日本国内で競争法の手続きを無視した、海外企業を含む企業買収が行われることが懸念される。このようなスキームを、今後は認めないが今回は認めるということであれば、なぜ今回は認めるのか明確に説明されることを望む」

富士フイルムの古森重隆CEOは、かつて東洋経済の取材に対して、「クリアランスが通らず、東芝とキヤノンのディールがなくなったとき、富士フイルムが買いに出る選択肢はあるのか」との問いに「それはウエルカムだ」と明言していた。それだけに、今回のグレー判定に口惜しさはひとしおだ。

ただ、今回の公取の判定が最終判断というわけでもない。今回は「密約が認められなかったとはいえ、今後証拠が出てくればクロに覆る」と品川氏は説明する。しかも、他の国での審査はこれから。海外の判断次第では、まだキヤノンは「一安心」とはいかないのである。

山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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