松下幸之助は「経営者は人柄」と考えていた これからの経営者にとって大事なこと

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全体のためには、ある人を切らなければならないことがある。そういう時には、気の毒だが断固として切らなければならない。それをやらなければ、組織全体がどうにもならなくなってしまう。「泣いて馬謖(ばしょく)を切る」という言葉があるが、実際にそういうことがあるものだ。

しかし、そんな時にもその人に対してどれほどの感謝の気持ち、情を持てるかどうか。そういう気持ちがないと、切ったことが全体のためにもならないし、その人のためにもならない。結局は自分も恨みを買うだけということになる。

かといって冷静に考えず情で判断すれば、事の決定がいい加減になる。冷静に判断してそのあとも冷静だと、今度は冷たくなってしまう。

やるべきはやる。しかしそれだけではなく、そのあと心を添えてあげる、気配りをしてあげる。それが経営者として、責任者として大事な条件の一つであるということを、松下はまことに平易な言葉で教えてくれたのであった。

人間は偉大である、王者である

今回の締めくくりにふたたび繰り返そう。松下は次のように考えていた。

人間は偉大である、王者である。経営をしていくとき、どの人も王者なのだ、という考え方を根底に持っていなければいけない。そこが大事である。社員の誰に対しても、ああ、この人はすばらしい存在なんだ、偉大な力を持った人なのだと考える。

そう考えれば、この人に意見を尋ねてみよう、この人の話を聞いてみようということになる。あるいはこの人に仕事を任せてもしっかりとやってくれる、信頼できるということになる。発想の根底にこうした人間観がないと、経営は成功しない。

経営者にとっていちばん大事なのは、この人間観である。人間をどうみるか、どうとらえるか。そこをきちんと押さえたうえで経営を進めなければ、大きな成功は得られない。

「きみ、ここはしっかり覚えておかんとあかんよ。まあ、この人間観は経営における第一ボタンやな、早い話が。な、最初かけ違えると、きちんと服が着れんのと同じやがな」

そして、使命感をもって、素直な心で経営に取り組んでいく。そうすれば必ず、成功することができる。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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