全体のためには、ある人を切らなければならないことがある。そういう時には、気の毒だが断固として切らなければならない。それをやらなければ、組織全体がどうにもならなくなってしまう。「泣いて馬謖(ばしょく)を切る」という言葉があるが、実際にそういうことがあるものだ。
しかし、そんな時にもその人に対してどれほどの感謝の気持ち、情を持てるかどうか。そういう気持ちがないと、切ったことが全体のためにもならないし、その人のためにもならない。結局は自分も恨みを買うだけということになる。
かといって冷静に考えず情で判断すれば、事の決定がいい加減になる。冷静に判断してそのあとも冷静だと、今度は冷たくなってしまう。
やるべきはやる。しかしそれだけではなく、そのあと心を添えてあげる、気配りをしてあげる。それが経営者として、責任者として大事な条件の一つであるということを、松下はまことに平易な言葉で教えてくれたのであった。
人間は偉大である、王者である
今回の締めくくりにふたたび繰り返そう。松下は次のように考えていた。
人間は偉大である、王者である。経営をしていくとき、どの人も王者なのだ、という考え方を根底に持っていなければいけない。そこが大事である。社員の誰に対しても、ああ、この人はすばらしい存在なんだ、偉大な力を持った人なのだと考える。
そう考えれば、この人に意見を尋ねてみよう、この人の話を聞いてみようということになる。あるいはこの人に仕事を任せてもしっかりとやってくれる、信頼できるということになる。発想の根底にこうした人間観がないと、経営は成功しない。
経営者にとっていちばん大事なのは、この人間観である。人間をどうみるか、どうとらえるか。そこをきちんと押さえたうえで経営を進めなければ、大きな成功は得られない。
「きみ、ここはしっかり覚えておかんとあかんよ。まあ、この人間観は経営における第一ボタンやな、早い話が。な、最初かけ違えると、きちんと服が着れんのと同じやがな」
そして、使命感をもって、素直な心で経営に取り組んでいく。そうすれば必ず、成功することができる。
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