映画館で「オペラを見る」時代がやってきた ライブビューイングが開拓した新娯楽の衝撃

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日本への導入は、本国ニューヨークと同じ2006年12月。映画配給大手「松竹」とのタイアップの下、大晦日の東京・歌舞伎座と、京都・南座において『魔笛』が初めて上映された。以来、日本における観客動員数はシーズンごとに右肩上がりの伸びを見せ、“オペラを映画館で楽しむ”という新しいスタイルが、今ではすっかり定着した感がある。

その人気の秘訣と成功のポイントはいったいどこにあるのだろう。まず何といっても大きいのは、METの上演レベルの高さだろう。その特徴は、最近はやりの過剰な演出や簡素なステージとは一線を画した、METならではの聴衆を楽しませる工夫が成された豪華な舞台。そして何より、そこに立つ歌手たちの圧倒的な歌唱力のすばらしさだ。

出演者へのインタビューは秀逸企画

世界のトップ歌手をそろえたステージは、まさに聴衆が想い描く“これぞオペラ”のイメージどおり。しかし、それだけでは、市販のDVDやテレビで放映されるステージとなんら変わらないと思われそうだが、「METライブビューイング」独自のカメラワークは、これまで収録されてきたオペラ映像とは別次元の臨場感を与えてくれる。実際のステージを観客席で見る場合はもちろん、ステージを俯瞰する定点観測になるわけだから、よほど高性能のオペラグラスでも使わない限り歌手のアップは拝めない。

舞台裏の出演者インタビューは知的なやりとりが魅力(写真: Marty Sohl/Metropolitan Opera)

ところが「METライブビューイング」の場合は、クレーンカメラやレールカメラの使用によって、熱唱する歌手たちの姿をあらゆる角度から眺める臨場感が味わえるのだ。

面白いのは、幕間に行われる出演者たちへのインタビュー。今ステージで歌ったばかりの歌手たちが、ハーハー、ゼーゼー言いながらも嬉しそうにコメントする姿は何とも微笑ましい。しかも、インタビュアーを務めるのがMETのスター歌手たちという趣向も興味深い。同業者ならではのユーモアに富んだ知的な質問と受け答えは、歌手たちを身近に感じるうえで極めて有効。

スタート当初は、本物のオペラへの入口を広げるためのイベントだととらえていたライブビューイングが、今ではまったく別のエンターテインメントに思えるようになった理由はこのあたりにある。何しろチケット料金は1作品3600円(一部演目除く)と本物のオペラの10分の1程度。しかも、好きな時間を選んで見ることができるうえに映画館なのでオペラを見ながら飲食も可能。これは魅力的だ。“ワイン片手にオペラ三昧”は楽しいことこの上なし。

音や画質のことを言い出したらキリがないが、この価格で世界最高峰のオペラの最新映像を見ることを思えば、個人的にはなんの不満も感じられない。日本語字幕を入れる関係で、日本での上映タイミングはニューヨークでの上演から4週間ほど後追いになるのだが、この字幕があることによって初心者でも楽しめること請け合い。歌あり、ダンスあり、芝居ありで、コンサートよりもずっと敷居が低く親しみやすいジャンルがオペラなのだ。“高価なチケット料金”という敷居を低くしたライブビューイングが楽しくないわけがない。

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