(第40回)<弘兼憲史さん・前編>壁新聞の制作で編集能力を培った

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●壁新聞が大好評!

 中学校は小規模で、一学年60人くらい、二クラスありました。勉強はできるほうで、リーダー的な存在でした。絵や漫画を描くのがうまかったので、そちらでも力を発揮しました。

中学の頃の一番の思い出は、自分一人で編集をした壁新聞を発行したことです。
 新聞の中身は、「自分史」です。夏休みになにをした、キャンプに行ってこんなことをしたといったもので、あとは川柳や詩を入れたり。万年筆で手書きの壁新聞でしたから、自分の絵のうまさを存分に発揮しました(笑)。
 壁新聞は、夏休みの課題として出されました。みんなで競い一番を決め、優秀作品は廊下に展示されるのです。僕はだいたい一番でしたね(笑)。よく夏休みの宿題に絵日記がありますが、新聞という形で課題になったということです。
新聞を作るにはヘッドコピーの持っていき方やバランスといったことを考えますから、ここで新聞を読む能力や簡潔な文章を書くという編集能力が培えました。
 40年以上経過していますが、その新聞は先生たちが今でも大切に保管してくれ、学校に残っています。

●米軍基地を通じて国際交流

 もうひとつ学校時代で忘れられないことといえば、米軍岩国基地の存在です。岩国では米軍による住民対策がうまく機能していて、住民と基地とが比較的仲良く融合していましたから、学校に、将校夫人といった時間に余裕のある学歴の高い人たちが英語を教えに来るようなこともありました。金髪の美人が来たりしてね(笑)。そのときに面白かったのは、学校に来るのは学歴の高い人ばかりではなく、田舎から出てきて訛の強い、勉強もろくにしていないような若い海兵隊の兵士の場合もあります。あるとき、「しばしば」という意味の「often」という単語を「オフトゥン」と「t」を入れて読むのです。「先生、tは要らないのでは?」って聞いたら、「ノーノー、オフトゥン」だと。日本の辞書を見せて「この発音はこうじゃないですか?」と説明しても、「ノーノーこれは間違っている!」とか、訳のわからないことをいう人がいたりしてね(笑)。このようなこともときにはありましたが、皆いい人で、夏休みのキャンプには彼らも参加して、テントの張り方などを教えてくれました。

 この頃、組み立てラジオを作りました。性能が悪いからFENしか入らない。FENは基地の放送で、当時美空ひばりとか、フランク永井がはやっている頃、僕らは、プラターズとか、チャックベリーとか、エルビス・プレスリーなどを聴いていたわけです。中学に入ると、やっとビートルズ、ローリング・ストーンズが出てくる時代ですから、音楽に対する意識は他の同世代の人間よりずいぶん進んでいましたね。

 僕は今でもアメリカが大好きです。メンタリティもアメリカ人に近く、アメリカ人になりたいと思っているくらいですから。基地の影響は大きかったです。
(中編に続く)

(取材:田畑則子、撮影:戸澤裕司


弘兼憲史(ひろかね・けんし)
山口県岩国市出身。1947年生まれ。漫画家。
早稲田大学法学部卒。松下電器産業入社。広告宣伝部に勤務の後、漫画家としてデビュー。課長からスタートした『島耕作』シリーズや、中高年の恋愛を描いた『黄昏流星群』など数々の作品を執筆し、漫画賞を受賞。ラジオ番組のコメンテイターを務めるなど、多彩な才能を発揮し活躍。
2007年紫綬褒章受章。
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