格闘家・青木真也が語る「猪木対アリ」の意味 偉大な男の訃報を機に改めて考えてみよう

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常見:人との距離感には間合いが大事ですよね。尊敬するのと、その人になれるのは違う。ぼくは、同世代にサイバーエージェントの藤田晋さんや、ちょっと上に堀江貴文さんがいます。昔は、同じ世代なのに、私は普通にサラリーマンやっていて、あの人たちは会社が成功している風で、しかも六本木ヒルズとかの高級マンションに住んでいるのか、と悔しい気持ちになったのですが、「この人たちはこの人たち、俺は俺なんだ」と開き直りました。

青木:狂っている人は人をひきつけますからね。気をつけないと。

常見:社会学者の宮台真司さんがよく「感染して卒業しろ」と言っています。師匠を探して感染して、いっぱい影響を受けて、でも最終的には卒業するんだと。どんな業界でも、感染しすぎておかしくなった人がいるんです。研究者の中でも、師匠の良いリサーチャーとして終わった方もいる。影響を受けても距離を持つのは非常に大事なことですよね。

自分なりの「猪木対アリ」を

青木:格闘家には代表作がある。そして、アントニオ猪木は代表作をつくることに命を懸けてきた人です。

猪木対アリは当時「凡戦」と言われました。ですが、40年経った今は「世紀の一戦」として、語り継がれています。その時の勝敗や評価は、その場のものでしかありません。時間が経った時に、意味が変わることもあります。

常見:よく言う話ですが、文学でも画家でも亡くなってから評価されることはざらにある。VALE TUDO JAPAN OPEN 1995で行われた「中井祐樹対ジェラルド・ゴルドー」の試合はレジェンドです。しかし、当時は、「ヒクソン・グレイシー対山本宜久」の試合の方を注目していましたよね。

青木:ぼくも、いろんな試合があります。自分のやった仕事はアーカイブだとおもっていて。もしかしたらいつか火がつくかもしれない。淡い期待を持ち続けている……。できるなら、生きているうちに評価されたい(笑)。

常見:青木選手は名作の宝庫ですよ。ぼくも、『「意識高い系」という病 ソーシャル時代にはびこるバカヤロー』(ベスト新書)という本を2012年に出版しました。これは、ノリと勢いで連載をまとめたものですが、いまだにこの件でメディアの取材を受けるようなこともありますし、昨年NHKで放送されたドラマ(「その男、意識高い系」)の題名にも使われました。ありがたいことに、英語を含めた学術論文にも何度も引用されています。本当に、なにが代表作になるのか分からない。

「猪木対アリ」状態も当時は非難されましたが、PRIDEがはじまったら同じような状況が出てきたりして、評価が上がりましたよね。もしかしたら、猪木対アリは、時代に対して新しすぎたのかもしれない。

青木:いつ仕事が評価されるかわからないから、自分のアーカイブだとおもって頑張り続けましょうと。猪木を見習う必要はありませんし、見習うべきではないと思いますが、自分の代表作をつくるために、頑張り続けることは誰にとっても大切でしょう。

常見:以前『プロレスという生き方』(中央公論新社)の著者である三田佐代子さんが対談で「続けることが大切」と言っていました。代表作をつくれ! 君なりの「猪木対アリ」をやってくれ! ということですね。ありがとうございました!

「猪木対アリ」は、「世紀の凡戦」でもなければ「歴史に残る名勝負」でもない。ただ、これを企画し、やりきったことがすごいのだ。そして、この試合があったからこそ、日本のいちレスラーだったアントニオ猪木は世界レベルの著名人になっていった。猪木対アリが成立したこと自体が奇跡だ。これをやりきったアントニオ猪木、モハメド・アリ、両陣営のスタッフに敬意を表したい。
あなたにとっての「猪木対アリ」的な仕事とはなんだろうか?

(撮影:梅谷 秀司、構成:山本菜々子)

常見 陽平 千葉商科大学 准教授、働き方評論家

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つねみ ようへい / Yohei Tsunemi

1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。同大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート入社。バンダイ、人材コンサルティング会社を経てフリーランス活動をした後、2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。2020年4月より現職。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

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