格闘家・青木真也が語る「猪木対アリ」の意味 偉大な男の訃報を機に改めて考えてみよう

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青木:まず、大前提として、今の時代で「猪木対アリ」のような試合は二度とできません。成立しませんね。もうジャンル同士が交わることがないですし、ネットの時代で情報が漏れるので、ここまでのカードを実現させるための交渉も難しいのではないかと。その上で言いますが、今から見ると、あの試合自体のレベルが高いとは思わないです。

常見:おお、どういう意味ですか。

最強は誰なんだとわくわくした時代

青木 真也(あおき しんや 1983年5月9日生まれ )日本の軽量級最高峰の寝技師として評価される

青木:なんせ1970年代なので、下駄をはかせる必要はあるとおもうのですが、正直、技術力が高いわけではありません。現在行われている試合の方が、研究されている分、クオリティが高いですね。

常見:1997年に総合格闘技イベントのPRIDEがはじまったばかりのときは、いわゆる「猪木対アリ」状態をけっこう見かけましたが、今の総合格闘技の試合でもあるのでしょうか。

青木:ないですね。いまの総合格闘技のルールだと下に寝ている方が判定で不利になってしまいます。

常見:今は技も進化していますからね。青木選手は世界トップクラスの寝技師と言われていますが、けっこう殴るし蹴りますよね。

青木:そうです。今の総合格闘技は、「寝技専門です」と言っても、他のところをつかれてやられてしまいます。だから、打撃の得意な選手が立って、寝技の得意な選手が寝るなんてことはほとんどありません。

「猪木対アリ」は、「プロレス対ボクシング」です。いわば、魚屋対八百屋みたいなもの。今行われている総合格闘技では、ボクシングの人がレスリングも柔道もできる状態です。いわば「コンビニ対コンビニ」で戦っているようなものです。

常見:1970年代から1990年代前半までの「異種格闘技戦」って、他の格闘技の人をプロレスのリングに入れ、折衷案のようなルールで戦ってきました。1993年にUFC(アメリカの総合格闘技団体)が始まりましたが、初期は空手家、柔術家、力士、街の用心棒、カンフーの達人……そんな人たちが出てきていて、とりあえず金網に入れて試合させて「リアル天下一武道会」でしたよね。

青木:そうそう。「猪木対アリ」の時代の、異種格闘技戦では、「柔道が強い」「いやいや、最強はボクシングだ」のような議論があったんです。でも、総合格闘技になって、みんなが多様性を認め合うようになってきました。「柔道の選手は寝技が得意だよね」などはありますが、総合格闘技で勝ったからといって、「柔道がすごい」「ボクシングが1位」のような意味を持たなくなってきたんです。

常見:昔は「柔道の看板を背負って」というストーリーが異種格闘技戦にはありましたよね。最強は誰なんだとわくわくしました。

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