格闘家・青木真也が語る「猪木対アリ」の意味 偉大な男の訃報を機に改めて考えてみよう

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青木:そうそう。逆に、一から十まで決められたようにやると、戦いに余裕が出てつまらなくなります。ですから、「猪木対アリ」も、仮に台本があったとしても、絶対にマジになる瞬間はあったはずです。だから、台本があるかどうかは本質じゃない。

常見:プロレスってわかっていても、「今日は本気かもしれない」とか、「今日の長州はキレてるかもしれない」と思うものです。プロレスは、文脈を読まないといけない。物語と、リング上の空気があいまったエンターテインメントであると。

青木:どっちが強い/弱いで語っちゃいけない。

常見:あるのは、「すごい」かどうかなんですよね。「猪木対アリ」は、上手いとか強いとかじゃなくて、「すごい」んですよ。あれをやったこと自体が。

自分に100%投資する

常見:「猪木対アリ」は引き分けでしたが、もし、猪木さんが負けたらどうなっていたんでしょうか?

青木:なにも変わっていなかったとおもいます。猪木さんは勝ち負けで立場がひっくり返る器じゃない。それはアリさんもそうでしょう。むしろ、勝敗がついていたらお互いもっと面白くなったかもしれない。もう一回やったかもしれないし。

常見:アリさんにプロレス参入の話はありましたからね。再戦して「猪木がもっと強くなる物語」を私たちはみることになっていたのかもしれません。

青木:どちらにせよ、あれは勝ち負けを超越した試合だったと思います。あの試合はアントニオ猪木さんが新日本プロレスのオーナー社長だからできたものです。猪木さんは社長でありながら、レスラーだった。ですから、自分にとって100%ベストな対戦相手を連れてくる。会社のお金を自分に100%投資するスタイルです。そして、自分の代表作をつくってきたんです。スポンサーにサントリーやカネボウといった大手企業がつきましたし。こんなの、今ではなかなかないですよ。

常見:上に人がいたら絶対に無理でしょうね。利益が出ないと難しいですし、新日本プロレスは実際に多額の借金を背負ったわけです。猪木対アリのギャラに関してもよくわかっていません。「20億円要求されたけど、ちゃんと払わなかった説」とかいろいろありますが、少なくとも、億単位を払ったので、すさまじい借金を背負ったはず。

でも、そのおかげで猪木さんは「アリとやった男」として、世界中に名をとどろかせた。恐ろしい先行投資ですよね。猪木さんの有名な試合は、ほとんどアリ戦の後です。その上で、政治家になった。こうなると、もう投資じゃなくて投機ですよね。

青木:「借金」という感覚がない。猪木さんにとっては貯金です。度胸がすわっています。猪木さんは普通じゃないんです。

常見:猪木さんの近くにいる人はみなさんそう言いますよね。

青木:ぼくは、意識的にあまり近くにいかないようにしています(笑)。磁場の強い人なので、周りの人が引き込まれて狂ってしまう。ある程度、磁場が保てる距離じゃないと危ないなと。格闘技に関係なく、サラリーマンも、すごく優秀な経営者の人の横にずっといればいいかというと、そんなことないでしょ。

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