青木:アントニオ猪木さんは、それを上手く利用しました。柔道家や空手家の有名な選手をプロレスのリングにあげ、「プロレスが最強の格闘技だ」と証明しようとしたわけです。その最も有名な試合が猪木対アリだとおもっています。
常見:しかも、「底が丸見えの底なし沼」であるプロレスが、空手や柔道、ボクシングのように、競技人口が明らかに多くて、統一の団体や機構があって、プロのライセンスや、階級があるような中で勝ってきた格闘技の人たちを相手に選んだ。
新日本プロレスのIWGPヘビー級王座といっても、実質10名くらいで争っていますからね。ぼくは一橋大学のプロレスサークルにいたとき「一橋世界ヘビー級チャンピオン」「一橋大学商学部世界ヘビー級チャンピオン」「一橋世界タッグチャンピオン」の三冠王だったんです。「世界」の定義ってなんだと。
青木:(笑)。
常見:で、そんなプロレスが、他分野の有名選手に金を出して呼んで、さらに勝つと。そして「プロレスは強い」と言うわけです。なんなら「猪木が一番だ」と。
青木:そんな横暴、いまは不可能です(笑)。あと、アリを呼べたのも日本という国に力があったからでしょう。よく「猪木対アリ」は「凡戦」あるいは「名勝負」と言われますが、「猪木対アリ」は「猪木対アリ」でしかない。時代も違えば環境も違う、二度とできない試合であるとおもっています。
あるのは「すごい」だけ
常見:青木選手だったら、アリさんとどうやって戦いますか?
青木:想像もつかないですね。そもそも、「猪木対アリ」は、謎が多すぎる。ルールについても諸説あるじゃないですか。立って蹴っちゃいけないとか。どう戦ったらいいんだという……。
常見:謎が多いですよね。アリはエキシビションだと思ってやってきたら、猪木の本気のスパーリングをみて、「真剣勝負だ」と悟ったとか。リアルファイトだとわかり、アリ側からルールの変更が何度もあり、猪木に不利なルールになったとか。ほんとかよ? みたいな話ばかりです。
青木:時が経って関係者が亡くなったら真相が出てくるのかもしれませんが。今回、アリさんが亡くなりましたが、猪木さんや仕掛けた新間さんが亡くなったあとに何かが明らかになるかもしれません。
常見:正式な契約書とか、ルール集が出てきたり(笑)。でも、明らかにひじ打ちはダメだったはずなのに、試合を見ると猪木がひじ打ちしてますよね。よく「猪木は寝そべっていて蹴っていただけ」という批判もありますけど、あの蹴りは映像を見るとスゴイ。アリもジャブとはいえ3発くらい当てています。
青木:お互い上手くいかなかったとおもうんです。「全部プロレスだったんだ」という説もありますが、仮にプロレスとして台本が決まっていたとしても、どこかでボタンの掛け違いは絶対に起こります。「こうやったら、こうするね」と決めていたとしても、「あれ、お前どうする気なんだ」と疑心暗鬼になったり。
常見:プロレスだけど、最後はマジになったり。途中まではマジなんだけど、最後にバックドロップで終わることが決まっていたり。
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