加えて、不公平性が問題になっている生活保護制度を含め社会保障制度体系の見直し、税金と社会保険料の徴収が異なるといった、先進国では稀有で非効率な仕組みを是正するなど、徴税漏れや支出抑制に直結する組織改革も必要である。官が主導する「成長戦略」に筆者は極めて懐疑的だが、歳出抑制や歳入底上げをもたらす公的部門の組織改革は、金融市場が最も評価する「真の改革」と筆者はみなしている。
ところが、増税より優先順位が高い上述の制度改革が進まない中で、2012年に旧民主党政権下で3党合意によって消費税の社会保障の目的税化が決まった。増税と社会保障制度改革を同時に進める枠組みは一般の理解を得られやすい。ただ、実際には8%の消費増税で家計に8兆円もの所得縮小が課されたが、これまで子育て支援など社会保障の充実にはわずか約6000億円程度しか充てられてない。この枠組みが単に財政緊縮の効果をもたらすものであったことを、すでに多くの国民は認識しているだろう。
さらに、この枠組みだと、消費増税が、社会保障制度を通じて新たな既得権益を作りかねない。給付範囲と制度効率化、医療産業の透明化と市場化の余地はある。それでも少子高齢化で収支バランスが悪化するなら、受益と負担の関係がより明確な保険制度を支える保険料引き上げという増税が、消費増税よりも望ましい。
家計と政府部門を同列に論じるのはおかしい
このように考えている筆者は、社会保障のために10%への消費増税が必要との考えには、従来から強い疑問を抱いている。
言うまでもないが、大規模な需給ギャップを抱え脱デフレの途上にある(=完全雇用には距離があり、またデフレに戻るリスクが高い)経済状況では、総需要安定化策の徹底が財政収支を改善させる確実な処方箋であり、むしろ増税は財政収支改善を逆行させた。この点については、過去のコラムでも述べたとおりである。
5%、8%への消費増税は程度の差はあれ、いずれも判断ミスと評価できる。1990年台半ばからのデフレ長期化を許容した日本銀行の金融政策とともに、1990年台半ばからのマクロ安定化政策の失政として今後総括されると筆者は考えている。そしてその反省を踏まえて、安倍政権は経済政策を運営すると予想しているが、2年半の消費増税先送りはその第一歩と位置づけられる。
それでも、消費増税が最優先事項ではないかと懸念される方がいなくなることはないだろう。日本の財政については、借金難にある一般の家計状況に例えて、国が深刻な赤字と公的債務を抱えているなどと度々説明される。ただ、個別の家計・企業の財務状態と、政府部門の財政状況を同列に論じるのは、経済学的にナンセンスとしか言いようがない。
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