6月23日に英国国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利したことで、世界の金融市場では広範囲なリスク資産の価格下落、国債金利低下が起きた。
英政府は今後EUとの離脱交渉に臨むとされているが、次期政権の姿がまったく見えないどころか、そもそもEU離脱が実現するかさえ依然不透明だ。離脱手続きに入る前に解散総選挙が行われるシナリオも予想されている。一方スコットランドが独立を目指しているほか、ドイツが英国に対して厳しい態度を示すなど政治情勢は不安定さを増しており、先行きに対する不確実性から金融市場が動揺するのはやむを得ない。
EU離脱となれば、英国が強みを持つ金融産業の競争力が低下する可能性が高く、それが金融システムを揺るがすとの懸念が今回、金融市場の動揺を大きくした側面がある。世界の金融中心地であるシティの存在を、強く認識する市場関係者ほど戸惑いを感じているのかもしれない。
英国は経済的には「小国」
リーマンショックの教訓を経て、欧米の大手銀行にはすでに厳しい規制が課されている。特に、2008年に膨大な公的資金を注入され、いまだ2000年代半ばの信用膨張の後始末に追われている英銀行業界の退潮は顕著で、EU離脱となれば、この流れが早まるだろう。世界の金融市場におけるシティの役割が変わるかもしれないが、成長産業である金融業の勢力図が、技術革新と政治体制の変化に応じて変革するということだ。
しかし、リーマンショック時のような金融システムに激震をもたらすマグマが溜まっている兆候はほとんど見られない。メディアでは「リーマンショック再来」とのヘッドラインもよく見掛けるが、不動産価格は安定しているし、先述の通り金融業界の状況も、リーマンショック時とは大きく異なる。
当社エコノミストは、英国EU離脱(Brexit)による企業活動や貿易停滞などにより英国経済は緩やかに減速し、2017年のGDP成長率は1.1%になると予想している。この程度の成長減速であれば、英国と相互関係が深いユーロ圏経済が影響を受けるとしても、米国経済を始めとした世界経済への影響はほぼないと言っていいだろう。歴史的に大国であった英国の混乱はセンセーショナルに扱われているが、世界のGDPに占める割合はわずか2%に過ぎず、経済的には小国と位置付けられる。
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