EU離脱に対する金融市場の反応は「過剰」だ 日本株は急落前の水準にすぐに戻る可能性も

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仮に英国がリセッションに陥っても、金融緩和による通貨安が進むので、世界経済への影響は吸収される。同じような政治に起因する混乱で、欧州債務危機の発生を懸念する向きもあるが、2010年当時の危機の根幹には欧州中央銀行(ECB)の金融緩和策が十分効果を発揮できなかったことがあり、最終的には2012年7月末に、ドラギECB総裁が国債購入策を宣言・導入したことで危機が収束した。

一方、ユーロというやっかいな足かせにとらわれない英国では、自国の経済安定化のために経済政策を存分に使うことができる。明確なインフレ目標実現を課せられたイングランド銀行(BOE)にはその能力を適切に使う判断力が備わっていると筆者はみている。英国よりも、デフレリスクが高いユーロ圏の経済には警戒すべきかもしれない。

こうしたことから、金融市場のBrexitに対するパニック的な初期反応は行き過ぎであり、2016年2月中旬同様に、過度な悲観がもたらす投資機会と位置付けていいだろう。日本株も巻き込まれたが、今後1か月程度で急落前の水準に戻してもおかしくない。株価反転のきっかけは何かとたびたび尋ねられるが、それを正確に予測するのは困難である。もちろんBrexitで発生した過度な先行き不透明感が和らぐ方向にベッドすることはリスクを伴うが、ほかの不確実な要因との対比ではテイクする価値に見合ったリスクと筆者は考える。

日銀はさらなる金融緩和に踏み出す

もちろん、これは市場参加者の1人である筆者の見方に過ぎないわけで、各国はリスクに対して慎重に身構えた政策対応を行う可能性が高い。英国やユーロ圏だけでなく、中国が抱える潜在的なリスクに警戒的な政策当局は依然多いとみられる。具体的には、米連邦準備理事会(FRB)の利上げは、Brexitによってさらに先送りされる可能性が高い。また、BOEとECBが金融緩和強化に踏み出すことで、金融緩和競争が始まると見ている。

景気回復が極めて緩慢で、インフレ期待低下が続く中、日本銀行もさらなる金融緩和に乗り出すだろう。ドル円が年初から20円前後も円高に振れている現状を見れば、日銀の金融政策は、脱デフレの動きを逆噴射させていると言わざるを得ない。つまり、デフレを事実上放置してきた白川方明前総裁の時代の日銀と変わらない。

日銀はマイナス金利政策を導入し、国債(量)、ETF(質)、マイナス金利との金融緩和を行う姿勢を示している。すべての選択肢が、次回会合では金融緩和の選択肢となるとみている。Brexitへの行き過ぎた懸念後退と、日銀のアグレッシブな政策対応が、過剰な円高と日本株のアンダーパフォーム解消の一つのきっかけになる可能性があると、筆者は考えている。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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