また、日本の財政赤字の規模が極めて大きいとの認識も妥当とは言い難い。先述した過去のコラムでも紹介したが、昨年度2015年度の国と地方政府のプライマリーバランスはすでにGDP比3%台まで改善している。これは、他の先進各国との比較でも、健全な状況に近づいていることを意味する。また、既に国債発行が減少しているので、公的債務の拡大も止まっている。
最近のメディアでは一刻も早くプライマリーバランス均衡化を実現させる必要があるとの声が多いが、そうした主張の多くは、経済成長率はインフレ率が財政収支に影響するメカニズムを無視している。脱デフレを完遂する過程で名目GDPが3%伸びて、2013年以降のように歳出抑制が続けば財政収支は均衡に向かい改善する。
財政収支は改善しているが、過去20年以上財政赤字が続いていることを懸念する方も多いかもしれない。ただ、そもそもデフレという異常な経済状況で、財政収支を黒字化するのは極めてハードルが高い。デフレが和らいだ2005~2007年そして2013年以降の局面で財政収支は大きく改善した事実(公表されているデータをみれば一目瞭然である)を踏まえれば、日本の財政問題とデフレがダイレクトに結びついていることは明らかである。
アベノミクス「一億総活躍」の本質
ところで、安倍首相は、国債発行を増やさないと明言しており、財政赤字を時限的に拡大させる財政政策を想定していない。これは、ヘリコプターマネーに踏み出さないことを意味するし、一部で期待されるようなアグレッシブな拡張財政が実現する可能性も低い。金融緩和を徹底して経済再生を目指す、これまでの政策が続くと筆者は予想している。
財政危機という幻想に惑わされず、客観的なデータ分析に基づく適切な政策判断が行われるなら、経済再生を目指すアベノミクスが頓挫するリスクは低いだろう。これが、安倍政権による消費増税の2年半延期の決断の、筆者の投資戦略に対するインプリケーション(示唆)である。
なお、アベノミクス発動で脱デフレと経済再生に注力したため、10%への消費増税を見送っても、子育てや介護など圧倒的に足りない社会保障への支出を一定程度増やす余地が生まれた。デフレと低成長の害悪を軽視してきた前政権は社会保障制度の充実を目指したが、まったく実現できなかった。安倍政権になって、脱デフレにより税収が底上げされ、ようやく子育て支援などの社会保障の整備に着手できるようになった。あまり評判が良くない「一億総活躍」の本質はこの点にあると筆者は考えている。
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