音楽の力で、被災地の子どもを励ます男 新世代リーダー 菊川穣 エル・システマジャパン代表理事
「エル・システマ」という音楽教育プログラムをご存じだろうか? クラシック音楽通なら、弱冠29歳で米ロサンゼルス・フィルハーモニックオーケストラの音楽監督に抜擢された世界的指揮者、クスターボ・ドゥダメルを生んだ教育プログラムといえばピンとくるかもしれない。発祥は南米ベネズエラ。幼児レベルからの子どもたちに本格的な音楽教育を無償で提供することで、青少年育成、貧困対策、犯罪防止につなげようという社会改革活動でもある。
今や世界30カ国以上に広がったこのプログラムを日本で初めて本格的に取り入れ、東日本大震災の被災地の子どもたちを支援する活動を始めたのが菊川穣さんだ。「生きる力を育むための音楽教育を」というビジョンの下、震災に加えて原発事故の被害も受けた福島県相馬市の小学生が、地元で本格的な音楽教育を受けられる仕組みづくりを進めている。
子どもたちが音楽を通して自己表現し、仲間と一緒になって創造の喜びを味わうことができれば、将来の目標や希望にもつながり、それを見守る家族や地域社会にとっても大きな励みとなる。菊川さんは、この活動を「まずは相馬市で定着させ、いずれは他の被災地にも広げたい」と言う。
菊川さんは今年3月、一般社団法人エル・システマジャパンを設立。5月には相馬市と協定を結んで「相馬こどもオーケストラ」のプロジェクトを正式に立ち上げた。7月にはベネズエラのエル・システマ管轄機関と了解覚書を締結。当面の目標は、13年末までに市内の小学校10校すべてにエル・システマ式の音楽教室を広げることだ。
すでに5校では今年秋学期から何らかの活動がスタート。バイオリンや管楽器、合唱など、まったくの音楽初心者を含めた子どもたちを相手に、エル・システマの教育法を学んだ地元の音楽教師が直接指導に当たる。
エル・システマの指導メソッドの基本は、(1)集団での学習によるチームワークの熟成、(2)子ども同士の相互学習としてのピア教育、(3)ダンス・運動の要素を取り入れた楽しい練習の3点。来年度からは同様のプログラムが一部の小学校の放課後のクラブ活動にも取り入れられる予定だ。
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