音楽の力で、被災地の子どもを励ます男 新世代リーダー 菊川穣 エル・システマジャパン代表理事

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エル・システマジャパンを立ち上げる前から、菊川さんには「活動が認知されて動き出してくれば、支援してくれる人は必ずいる」という自信はあったという。それでも、安定したユニセフ協会の職を辞めて飛び込むリスクは大きく、迷いがなかったわけではない。そんなとき、家族以外で最初に相談した相手がエリトリア時代からの友人で国際人権組織ヒューマン・ライツ・ウォッチジャパンの代表、土井香苗さんだった。

話を聞いた土井さんの意見は「やるべし」。「人権問題に比べれば、音楽教育なんてずっとわかりやすいじゃない」とハッパをかけられた。土井さんはその後エル・システマジャパンの理事を引き受けてくれるなど、よき助言役となっている。土井さん以外にも、活動立ち上げには各方面から協力が得られた。駐日ベネズエラ大使館や梶本音楽事務所、音楽教育法「スズキメソッド」の普及活動を担う才能教育研究会などはその一例だ。

エル・システマジャパンの現在の計画では、14年までのほぼ2年間の活動費用として、約1億円の資金集めを目指している。このうち、相馬でのプログラムにおける資金の使い途としては、楽器の購入やメンテナンス、音楽講師の派遣、指導者育成、研修会の開催など。加えて、今後の他地域での展開を想定した調査、研究事業、エル・システマについての広報活動などの資金も必要となる。

来年(13年)の活動資金のうち、楽器の修繕、購入等に関しては個人、企業、団体からの寄付と、政府の補助金(文部科学省の復興関連予算)などでほぼメドが立ちつつあるが、「まだまだ資金繰りに余裕はない」。なお、政府の補助金は今年度分(11月~13年3月)として200万円を確保した。来年度以降も特に問題がなければ継続的に支援を得られる予定だという。

企業関係者からの支援も増えつつある。知人から紹介を受けた山岸広太郎氏(グリー副社長)が個人名義で大口の寄付を行ってくれたほか、サクソバンクFX証券は法人としての継続的な支援を申し出てくれている。複数企業から楽器等の物資支援も含めた協力のオファーが来ているほか、エル・システマジャパンとのパートナーシップ構築を検討してくれている大手企業もある。

来年2月24日には、震災2周年を前に、エル・システマを始めた相馬の小学校の子どもたちによる合同コンサートの開催が決まった。また、小学校を卒業した子どもたちが中学でも継続して活動を続けられるような環境づくりの準備も進めている。中期的に相馬以外に活動の範囲を広げるためには、大学などの協力を得てエル・システマの体系的な指導者教育コースを立ち上げたり、子どもたちへの教育面での効果について学術的な検証・研究を行ったりするなど、いくつか実現すべきプロジェクトもある。

そうした課題に1つずつ正面から取り組むことで、「日本独自のエル・システマ」が形作られていくのだろう。被災地の子どもたちの「人生そのもの」としての復興を持続的に支援する菊川さんの仕事は始まったばかりだ。

(撮影:今井康一)
 

勝木 奈美子 東洋経済 記者

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かつき なみこ / Namiko Katsuki

環境・水処理機器、プラントメーカーなどを担当。現職はメディア編集部長

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