音楽の力で、被災地の子どもを励ます男 新世代リーダー 菊川穣 エル・システマジャパン代表理事

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こうした活動はすべて、エル・システマジャパンが同市教育委員会を支援する形で行っており、運営主体はあくまでも現地の学校だ。そこに必要な楽器を無償で提供して講師を派遣する一方、活動についての告知やPRを行い、寄付や助成金などの資金集めをするのが菊川さんの役目となる。

音楽を通じた社会活動、というユニークな活動のリーダーとなった菊川さんだが、自身は音楽教育の専門家というわけではない。

前職は、財団法人日本ユニセフ協会職員。その前には国連機関のアフリカ担当として、通算9年間、現地に勤務した経験を持つ。英国で大学院を修了した後、日本のシンクタンクに就職。その後、子どもの頃から抱いていた「国際関係の仕事に就きたい」という夢をかなえるべく、外務省が本省採用枠以外の若手職員を国連機関に派遣するJPO制度で国連機関のキャリアへの切符を手に入れた。

極端な学歴社会、国連でのサバイバル

ただ、JPOは期限終了後のポストを保証してくれるわけではない。菊川さんはJPOとして国連教育科学文化機関(ユネスコ)南アフリカ事務所に2年間勤務し、国連児童基金(ユニセフ)へ移ったあと、短期契約を経て正規職員のポストを得た。ユニセフではアフリカのレソト、エリトリアに赴任し、教育・衛生分野、特にHIVエイズ対策などのプログラムの現地コーディネーターとして、現地の子どもたちを病気や貧困、暴力などから守り、教育機会を与えるための援助プログラムに携わった。

やや話はそれるが、一般の人には縁の薄い国連機関とはどういう職場なのだろうか。

「仕事的なやりがいはとても大きかった」と菊川さんは言う。だが、国連機関といえばさまざまな国籍の人材が働く「海千山千」の世界であり、一般的に「黙ってまじめに働く日本人は便利に使われやすい」のも事実。特に、社会科学分野は極端な学歴社会であり、そこで下からキャリアアップしていくには、学歴の高さは当然として、堂々と自己主張するスキルも必須条件になる。

「正規採用でも国連機関の職員は原則として2年ごとの契約制。2年経っても同じポストなら自動更新してもらえるが、その上に行くには自分で職探しをする必要がある。国連にとって資金の出し手としての日本の存在感は大きいとはいえ、下っ端の職員レベルで組織の階段を上っていくのは楽ではない。何十枚も履歴書を書き、タイミングよく空席があって初めてポストが得られる。日本人でも女性ならいわゆるクオータ(特別採用枠)の対象となる非白人女性として優遇される場合もあるが、日本人男性にとってのハードルは高い」

赴任先も政情が不安定だったりインフラが未整備だったりで、生活環境は過酷だ。ユニセフの場合も、職員の3分の1は赴任地に家族を帯同していないという。菊川さんは、レソト勤務時代に結婚。日本人のパートナーも国際協力の仕事の経験があったことから現地で一緒に暮らし始め、エリトリアにも同行。そこで長男が生まれて1年以上は家族3人、現地で暮らしていたが、政情不安が深刻化したことから母子は日本へ帰国。菊川さんはしばらく単身エリトリアに残り、当地での雇用契約が切れた07年、日本へ帰国した。

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