消費増税を争点にしない政治は究極の無責任 安倍首相は公約をいとも簡単に反故に

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日銀の黒田東彦総裁の任期は18年4月まで、安倍首相の自民党総裁としての任期は2018年9月まで。両総裁が再任されるにせよ、されないにせよ、その時点の総裁は重い任務を背負うことになる。

2度目の増税延期に今回、格付け会社がどう反応するかも気掛かりだ。欧米格付け3社の日本国債格付けは、現在、シングルA格である。14年11月の増税延期の際、ムーディーズは同12月にA1へ格下げし、S&Pも15年9月にA+へと引き下げた。

GDP比200%に上る巨額の債務残高にもかかわらず、日本国債が相対的に高く格付けされている一つの要因は、消費税率が20%前後である欧州と比べて、8%とまだ低く、増税余地があるとみられているからだ。

しかし、5月の政府月例経済報告にあるように、個人消費も輸出も生産も「横ばい」で、リーマンショック時には程遠い状況なのに、「2%ポイントの増税すら実行できないと、日本の徴税能力と将来の債務返済能力に疑義がつきかねない」(マネックス証券の大槻奈那チーフ・アナリスト)。

日本国債格下げでジャパンプレミアム再び

増税延期による国債の信用力低下は邦銀など日本企業に悪影響を及ぼしかねない。

メガバンクは、海外貸し出しに必要な外貨の3分の2を預金以外、つまり市場から調達している。15年以降、ドル調達コストが上昇しているうえ、「国債格下げに伴い邦銀の信用力が低下すると、一種のジャパンプレミアムという形で調達コストが相応に高くなる可能性がある」(大槻氏)。「TLAC債」と呼ばれる資本性を持つ債券にも、金利上昇や投資家の売りという形で影響の出るおそれがある。

残念なことに、こうした論点が、7月に予定される参院選で問われることはなさそうだ。なぜなら、与野党挙げて、増税延期を主張したから。国政選挙で増税の是非が争点にならない、この政治の無責任こそ、増税延期が突き付ける最大の問題である。

「週刊東洋経済」6月11日号<6日発売>「ニュース最前線01」を転載)

 

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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