それからまもなく、同じパリに2号店ができ、ツアー客はその新店舗に誘導されるようになりました。「さすが売れているブランドは違う」と評判になりましたが、真相は、そういうあさましい客と同じ空間で買い物をしたくないという、常連からの苦情によるものだったそうです。
それにしても、「灰皿お願いできますか?」、「ちょっと見ていいですか?」この一言が、なぜ言えないんですかね?謎です。
バーでは、世話をやかない。
たとえ複数での来店であっても、バーは、個人がそれぞれに好きな酒を片手のひとときを楽しむ場です。
なので、職場や家庭での関係性をそのまま持ち込んで、それこそ灰皿をとってあげたり(!)、家での会話のようにご亭主をこきおろす(実際にいらしたんです。びっくりでした)、なんていうのは、みっともないからやめましょう、と、まぁそういうことです。
「おすすめは?」は、実は嫌がられる。
知り合いにその世界では有名なフレンチのシェフがいます。知名度には天と地ほどの差があっても、個人経営の飲食店という立場は同じ。行きつけの居酒屋で会ったときなど、同業でなければわかりあえない愚痴をこぼしあったりしています。そこではげしく一致するのが、いつもこのこと。
社員やアルバイトが大勢いるような(つまりシステムをつくってまわしていくような)大規模な飲食店と違い、個人の店では、そこのオーナーが、自分の価値観をメニューに反映させていることが多く、すべてが「おすすめ」なのです。
では、何を基準に注文するものを選ぶのかというと、お客さま自身の「好み」。
うちのバーであれば、好きなお酒の種類や、どんなものを飲みたいかをまずお聞きします。甘め、辛め、香りの強さ、さっぱりかどっしりかなど、飲んだときの感じをお話ししながら、候補になるお酒のボトルを実際にお見せして、決めていただきます。
シェフのお店であれば、彼のレシピは、どのメニューにも野菜をたっぷり使うという特徴があります。なので、その日入荷した野菜の種類を聞いたり、重め、さっぱり、メインの素材との組み合わせなどの好みを伝えて、いちばん自分が食べたいものをメニューから選べばいいのです。そんなオーダーができるのが個人店のいいところ(混んでいるときを除きます)。
そのコミュニケーションを面倒くさがって、メニューも見ずに、いきなり「おすすめは?」と、聞く。これは、「わたくしは、自分が食べたいもの、飲みたいものもわからない人間なんです」と白状するようなものなのです。
せっかく、外で、おいしく楽しいひとときを過ごしにいくのです。店に入る前に、自分はきょう、この店で、どんなものが食べたいのか(飲みたいのか)をイメージして、それを言葉にして、まず伝える。
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