高齢者が若者から仕事を奪うという「ウソ」 高齢者の仕事が増えれば若者の仕事も増える

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彼らは同工場での生産性について、次のようにまとめた。「肉体的な強度が必要とされる労働環境においても、年齢による体力的な低下は、年齢とともに向上する特性によって相殺されるようだ。それらの特性は直接的には測定しにくいもので、たとえば経験などがそれに当たり、また、何か問題が起こったが修復する時間が限られているなどの切迫した状況下で、チーム内でうまく仕事を進める能力などもそれに該当する」。

知識ベースの企業では、経験やコラボレーションはより重要となる。前出の世界銀行エコノミスト、コットは「つまり、高齢者はやり方が違うのであり、やり方が悪いのではない」と言う。

この見方には、アイリス・シライシも大いに同感することだろう。シライシは14年間にわたり、ミネアポリスのムー・パフォーミング・アーツ(アジア系米国人の舞台芸術グループ)で太鼓アンサンブルのディレクターを務めてきた。2年前、60代の初めの頃に、彼女は自分で太鼓グループを組みたいと思った。20年の経験をもとに、彼女は自身の曲や独自の楽器編成、演奏テクニックを用いてクリエイティブな挑戦を行っている。

誤解3:高齢者が若者を労働市場から締め出す

労働市場はゼロサムゲームであるという概念、つまり、あるグループの人々が多く雇用されると、別のグループの人々は仕事が得られなくなるという考え方は、かなり根強く存在する。エコノミストはこうした認識を「労働塊の誤謬」と呼ぶ。

しかし実際は、高齢者の仕事が増えると、並行して若い人々の仕事も増える傾向にある。カーステンセンは言う。「仕事の数は固定されてはいない。パイは大きくなるのだ」。

また、高齢者が働くことにより、若手の昇進が阻まれるということもない。たとえば、働き続けようとしている50歳以上の人々では、その58%がキャリアの転換や転職を計画しているという(AP通信-NORCセンターが実施した「ワーキング・ロンガー」アンケートによる)。また、アンケート回答者の25%以上が、自分の競争力を維持するために、最近職業訓練を受けたか、追加的な教育を受けたと回答した。

米国経済を新たな軌道に乗せるには

高齢者もまだまだ貢献ができる。ワシントンにあるアーバン・インスティテュートのエコノミスト、C・ユージン・スターリーは次のように経済の流れを説明する。「労働力の供給が増えれば、国全体でより多くの仕事が行われアウトプットが増える。アウトプットが増えれば、労働者の収入が増える。収入が増えれば税収も増える。税収が増えれば、税率を据え置いたままで、政府はより多くの支出を実施することができる。あるいは、税率を下げることができる」。

結論を言うと、米国経済を新たな軌道に乗せる1つの方法は、高齢の米国人に働き続けることを奨励する政策を取ることだ。そして、雇用者側は高齢の労働者の価値を認めることだ。

(執筆:Christopher Farrell記者、翻訳:東方雅美)
© 2016 New York Times News Service

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