本は「引きこもり高齢男性」の社会復帰を促す 全国で65館!広がる民間図書館の威力

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千葉県・習志野市の袖ヶ浦団地にある民間図書館では、利用者、ボランティアの8〜9割が70歳以上。この日、ボランティアに来ていた工藤さん(71歳、右)は妻も民謡のボランティアで老人ホーム慰問などをしているそうで、「互いにウチにいないから喧嘩しなくて良い」と笑う

高齢者の増加につれ、社会でさまざまな問題が生じている。大きなところでは年金、医療、介護にかかる費用の増大とそれによる財政への影響が挙げられるし、身近なところでは寝たきり高齢者の介護や孤独死、空き家問題と枚挙に暇がない。それぞれに解決策が必要だが、多くの問題に共通する解決へのポイントとされているのが、高齢者を閉じこもらせず、社会とのつながりを持ち続けられるようにすることだ。

実際、閉じこもり高齢者は寝たきりになりやすい。現在は国際医療福祉大学大学院の教授である竹内孝仁氏が1984年に書いた論文「寝たきり老人の成因-「閉じこもり症候群」について-」によると、寝たきりに関しては、身体的、心理的、社会・環境の3つの要因がある。それらが関連しあって閉じこもり状態となり、そこから生活不活発病に発展、やがては寝たきりの要介護状態に陥るとされている。在宅の高齢者を追跡調査した結果では、非閉じこもり高齢者の要介護認定発生は7.4%だったのに対し、閉じこもり高齢者では25.0%だった。

また、閉じこもりは孤独死にも繋がっている。介護予防事業での閉じこもりの定義は、寝たきりではないにも関わらず、週1回も外出しない状態とされているが、そうした状態の人が倒れていたとしても、発見されにくいのは言うまでもない。東京都監察医務院が公表している統計データによると、2003年に1441名だった東京23区内の孤独死は、2012年には2727名と10年間で約2倍にまで膨らんだ。特に目立つのは女性よりも社会性に乏しく、近所付き合いが苦手な男性の孤独死だ。

本は年齢、性別、職業を越える

こうした中、各自治体では高齢者と地域をつなげる活動などに力を入れているが、若い頃から子どもの学校の活動などを通じ地域とつながりを持つ女性に対し、男性は定年退職して初めて地域とかかわるパターンが多く、なかなかうまくなじめないことが少なくない。

その中にあって高齢男性をひっぱり出すことに成功している活動がある。千葉県船橋市で2004年3月から活動しているNPO法人の情報ステーションが運営する民間図書館である。当時早稲田大学理工学部1年生だった岡直樹氏が立ち上げた活動で、2006年に第一号となる「ふなばし駅前図書館」がオープン。2016年4月末時点で、船橋市内26館を始め、首都圏、京都、九州などで合計65館を展開している。

場所は駅ビルや飲食店、マンションの共用部、老人ホームの一角など。店舗やマンション事業者などが開設を希望した場合、そこに情報ステーションが図書館の書籍管理システム、パソコン、書籍を貸し出し、維持費を払ってもらう仕組みだ。1館ごとの書籍数は400冊前後と公共図書館よりも少な目だが、書籍とその利用履歴をコンピュータで管理し、定期的に利用者のニーズに合わせた入れ替えを行っているため、満足度は高いという。

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