本は「引きこもり高齢男性」の社会復帰を促す 全国で65館!広がる民間図書館の威力
手始めに佐倉市にある完全分離型の二世帯住宅を図書館に転換。所有者はまだ50代後半で高齢とまでは行かないが、二人暮らしだった母を亡くし、これからの人生の生きがいを仕事以外に見出したいと考えていた。
「(自宅を図書館に転換した)山口さんには10年ほど前、ふなばし駅前図書館立ち上げをお手伝いいただいた。去年の秋、お母さんを亡くされた後、以前からやってみたかった図書館をやりたいと相談を受けた」(岡氏)。当時、二世帯住宅の上階は塾として利用されていたが、生徒数も少なくあまり活用されていなかったという。
オープンしたばかりという図書館を訪ねたところ、DIYもしながら改装したという館内で山口さんは実に楽しそうだった。いくら好きな本に囲まれていても広い家で一人では寂しい。
だが、これからはここに子どもたちも含め、いろいろな人が訪ねてくるはず。そう考えると、図書館は利用する人のためだけではなく、開設する人のためでもあることがよく分かる。
なぜ本は高齢男性を魅了するのか
情報ステーションのこうした活動や成果に対する評判も上々だ。2014年には、これからの図書館のあり方を示唆するような先進的な活動を行っている機関に対して、NPO法人の知的資源イニシアティブ(IRI)が毎年授与する「ライブラリー・オブ・ザ・イヤー」を、京都府立総合資料館や島根県海士町中央図書館などといった公共図書館と並んで受賞。同年には環境省のグッドライフアワードで環境大臣賞も受賞している。
一方で課題もある。運営資金は寄附と各図書館からの維持費で賄われており、安定しているというが、図書館、ボランティアが増えるにつれ、それをマネジメントする人材の不足を感じているという。内部での育成はもちろん、社会で非営利組織のマネジメントを考えていく必要があるのかもしれない。
ところで、なぜ本はそんなにも高齢男性を呼ぶ「フック」になるのだろうか。本を買わない若い世代にはわからないかもしれないが、ある一定の年代以上の人にとって本は単なる商品ではない。畏怖の念のような、憧れのような、感情を持っている人が多いのである。そのため、ほかの活動やボランティアには興味がないという人でも本がかかわるなら参加するというケースが少なくない。高齢男性にとって本は、社会との媒介として特別な存在なのである。
自分ひとりで読むだけなら電子書籍でも良い。持ち歩くのも楽だし、何を読んでいるかを知られることもない。だが、本を通じて人と知り合いたい、話の糸口を作りたいなどコミュニケーションツールとして考えるなら、リアル書籍に勝るものはない。その違いを踏まえた読書経験が楽しめる街、できればそれを通じて社会にかかわわれる街。人生を長く、豊かに楽しむなら、そういう街が面白いと思う。
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