ゲルニカは、なぜ世界一借りにくい絵なのか

強いメッセージを持つ絵の「威力」

ゲルニカ市にある『ゲルニカ』実物大のタペストリー(写真:Papamanila / Wikimedia Commons)
戦争の悲惨さを描いたピカソの名画『ゲルニカ』。そのタペストリーが国連本部のロビーからこつ然と姿を消すところから、反戦のシンボルをめぐって人々の信念や欲望が交錯する壮大なアートサスペンス『暗幕のゲルニカ』は始まる。
同時に進行する2つの時代の2つの物語。主役は、9.11同時多発テロを経て軍事色の強まるアメリカに、門外不出のゲルニカを呼び戻そうと奮闘するニューヨーク近代美術館(MoMA)の日本人女性キュレーター。そして、大戦前夜、ナチスの軍靴迫るパリで世紀の大作を世に送り出すピカソとその恋人ドラだ。小説家の原田マハ氏に、この小説を書いた理由などを聞いた。

誰がなぜゲルニカに暗幕をかけたのか

──この小説を書いたきっかけは何だったのですか。

基となる事件は2003年2月に起こりました。当時、イラクの大量破壊兵器疑惑をめぐって国際世論が紛糾し、私はその成り行きを関心を持って見ていました。ついにアメリカを中心とした連合軍がイラク空爆に踏み切るという前夜、当時のブッシュ政権パウエル国務長官が国連安保理会議場のロビーで会見したのですが、そのとき背景にあるべきゲルニカのタペストリーに暗幕が掛けられていたんです。前代未聞の光景で、ほぼリアルタイムで見ていた私は、非常にショックを受けました。

誰がなぜ暗幕を掛けたか。これから空爆を仕掛けるというタイミングで空爆を批判する絵柄はまずい、と誰かが判断したんですね。事件は程なく忘れられていったけど、私の中でこの出来事は強烈に残りました。

その数カ月後、スイス・バーゼルでピカソと親交があった大コレクター、バイエラー氏の美術館を訪れたときのこと。ロビーへ入った瞬間、ハッと息をのみました。ゲルニカのタペストリーが飾ってあったのです。横に、パウエル長官が暗幕の前で演説する写真に添えてバイエラー氏のメッセージがありました。ピカソの真のメッセージは暗幕などでは決して隠せない。誰かがピカソのメッセージに暗幕を掛けたのであれば、私がそれを引きはがすまでだ、って。

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