──二つの異なる時空間が並走する重層的な作りですが、いちばん苦心された点はどこですか?
この作品は、物語の根幹を成す10%の史実でフレームを固め、その上に90%のフィクションを載せるスタイルを取っています。この10%を作り込むのにものすごい労力と時間を費やします。徹底的に取材するし、資料や文献も読み込む。巻末の文献リストなどほんの一部だし、詳しい話をご存じの方がいると聞けば西へ東へ駆けつける。フレームさえ強固なら、フィクションをどれだけ積み上げても必ず支えてくれる。
そのうえで、本当にあった光景かもしれないと読者にいかに思ってもらうか、いかにその世界に入り込んでもらうか。ゲルニカ誕生は1937年第2次世界大戦前夜、しかも遠いフランスでの話。それを読者にどうリアリティを持って共有してもらうか、ってことですね。
ゲルニカは私たちの物語
でも、一番のキーはやっぱりゲルニカなんですよ。ゲルニカが実在することを読者に意識してもらいながら、本当にこんな会話があったかもしれないと想像しつつ読み進めてもらうと、他人事ではない自分たちの物語として、リアリティを持って受け止めてもらえるんじゃないか。
主人公が「ゲルニカはあなたのものじゃない。ましてや私のものでもない。私たちのもの」と言いますよね。本当にあったピカソとゲルニカの物語、そのゲルニカをもう一度アメリカに呼び寄せ平和を訴えたいという、本当にあったかもしれない物語を、私たちの物語として受け止めてもらいたいな、という部分に本当に腐心しました。
幸い、私が投げた強い直球を、多くの方がミットに収めてくれたと感じています。「やっぱり世界平和だ!」って思っていただきたいですね。これをきっかけに小説、アート、世界平和、そしてピカソ自身のメッセージに意識や関心を持っていただければ、それはうれしいことなので。
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