特別企画:ミドルリーダー座談会(上) 高度な思考・コミュニケーションとは
井手伸一郎 A.T.カーニー アソシエイト(グロービス経営大学院2009年修了)
戸津涼 レインズインターナショナル 取締役執行役員(グロービス経営大学院2011年修了)
藤井久仁子 エムティーアイ 人材開発部長(グロービス経営大学院2010年修了)
荒木博行 グロービス経営大学院 教員
そもそもビジネスを構造的に理解しようとしているか(荒木)
荒木:前回、戦略に対し、「自分がコミットする」、「自分のものにする」といった話が出ましたが、前提として、それが戦略のセオリー、理論や定石を理解したうえのものであるかを整理する必要があるように思います。
自分がコミットするという姿勢は、それはそれで大切です。ただ、全体の中での位置づけもはっきりさせない中で、「うちのチームの売上ノルマは1億円なので、お前はリーダーだし、3000万円は何とか頼むよ」といった感じのコミュニケーションをするのと、環境分析や競合理解といった定石を踏んだうえでの説明をするのとでは、得られる納得感がまるで異なります。
ところがそういった部分は、現場ではほとんど語られていない気がします。MBO(Management By Objectives, 目標管理制度)などを通じてされる上司―部下のコミュニケーションと、戦略論の間に乖離を感じている人のほうが多いんじゃないかなと。双方ともそれよりも、いかにうまくコミュニケーションをとっていくかという方向に引力が働いてしまっている。それはそれでもちろん大事ですが、同時に、戦略思考の回路を開けることも必要ではないかと思うわけです。
さらに、残念ながら多くの人が「何から考えたらいいの?」という感じになるというのが実情でしょう。もちろん、競合が何をしているか、自社の強みが何か、など、部分的には頻度高く考えられている要素はあります。
ただ総じて、局所戦的なレベルの話となってしまっている。本来は、もう少し先の話があると思うのですが。たとえば、そもそも当該ビジネスがどういったタイプのものであり、エコノミクスはどのように変化しているのか、といった、より構造的な理解です。
なかなか現場に生きない経営学
戸津:そうですね。ただ、定石的な戦略フレームワークで考えられるものと、ミドルの人たちが日常で抱えているものとでは、いわゆる“粒の大きさ”が違い過ぎるとも思います。たとえば私の下にも経営学の勉強をしている部下はいますが、彼・彼女らに「今の仕事に学んだことを応用したら何が考えられる?」というようなことを聞いてみると、やはり全社的に考える前に、自分の役割に引っ張られてしまう。戦略論を学んだあとであっても思考のスタートは自分の担当になってしまう。
持っている情報量が異なるわけではありません。数字を含め、アクセス権は持っています。そういうことではなく、思考の基点や深さの差みたいなもの。目線の高さの差と言ってもいいかもしれません。
もちろん前回、井手さんが言われた“2つ上の視点”に立とうとすることはできても、実際にそこにいる者との間には何か壁のようなものは存在する。この差を丁寧に紐解かず、経営学を学んでいるからというだけでミドルもトップも十把一絡げにしてしまうことは、私は少し危うく感じます。
差異を埋めるために何が必要か、に明確な答えはないのですが、経験を踏むことは間違いなく重要と思います。単に学ぶだけでなく、例えば常に自らの仕事にあてて考え続けること。その場数は徐々に効いてくるのではないかと、今、お話をしながら思いました。
井手:組織の全員が“2つ上の視点”に立って考えられれば、それは理想だとは思いますが、、、ただ現実的には能力の問題もあるし、役割期待の違いもありますから、それを全員に期待しすぎないということも、必要ですね。