「死を意識するため小説を書いた」 新世代リーダー 川村元気 映画プロデューサー(上)

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川村 元気
東宝 映画プロデューサー
川村 元気
1979年東京生まれ。2001年、上智大学文学部新聞学科卒業後、東宝入社。05年に企画・プロデュースした電車男が興行収入37億円の大ヒット。
10年には企画・プロデュースを手掛けた『告白』『悪人』が日本アカデミー賞を総なめに。その後も、『モテキ』『friends もののけ島のナキ』『宇宙兄弟』『おおかみこどもの雨と雪』などヒット作を担当し、11年に優れた映画プロデューサーに贈られる「第30回藤本賞」を史上最年少で受賞。12年10月にデビュー作となる小説『世界から猫が消えたなら』を発表した。米『ハリウッドレポーター』誌が選ぶ「Next Generation Asia 2010」の一人。
『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『宇宙兄弟』『おおかみ子どもの雨と雪』――映画プロデューサーとして、数々のヒットを飛ばしてきた川村元気氏。彼は、日本エンタメ界における、新世代リーダーの代表といえる存在だ。
そんな彼が、映画という枠組みを飛び越え、小説を発表した。タイトルは『世界から猫が消えたなら。世界から、電話、映画、時計、猫などが消えたら、世界はどう変化し、人は何を得て、何を失うのか。それを余命わずかの主人公を通じて味わうストーリーになっている。
なぜ小説を書いたのか。これからどんなテーマに取り組もうとしているのか。そして、日本と日本の映画界はどう変わっていくのか。

人生の後半戦をどう生きるか

――まず、映画という枠を飛び越え、小説に挑戦した理由を教えてください。

僕は今33歳なので、人生のほぼ半分を生きてしまった。もう人生の後半に入ったという意識があります。この小説の一つのテーマは、「その残り半分の人生を、どうポジティブに見つめるか」ということです。

人間にとってネガティブの究極が死だと思いますが、それを見つめることで、ポジティブなものや未来が見えてくるのではないか、という発想がありました。自分の死を意識したときに、いろいろな優先順位とか、本当に大事な人とか、大事なものとかが決まってくる。

たとえば、小説にも書いていますけど、「この人のお葬式には予定をキャンセルしてでも行くべきかどうか」と迷うことがある。そこで迷う人は、自分の人生にとってどうでもいい人なんですよ。残酷ですけど、目の前に追われていることや、日常的に接している人が、自分の人生にとって大事な人とは限らない。

僕自身も、自分のお葬式で、自分のために、オイオイ泣いてくれる友達がいるのかと考えてみると、ひょっとしたらあいつじゃないかって思うのは、案外、中学校の頃の親友だったりする。ただ、彼とは、もう全然会っていなくて......。これからは、そういう奴と会っていくべきではないかと思ったり。

あと僕らは、母親という存在が、いつまでもいると思っていますけど、当然、親もいい年齢になっています。

今60歳で、80歳には死ぬとすると、あと20年間しかない。僕なんか親不孝なんで年に2回ぐらいしか母親と会わないので、あと会えるのは、20年×2回=40回。次に会うときは、40分の1なのかと思うと、もうちょっと丁寧に接しないといけないな、と思うわけですよ。

つまり、「終わりから考える」「何かが消えた世界から考える」ということは、いろいろなことをポジティブに考えさせることなんじゃないか、と。人生半分生きて、あと半分死んでいくとなったときに、そういうことに意識的になってきた。

ただ、僕の場合、そうしたことを物語で語るべきだと思ったんですよ。

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