「死を意識するため小説を書いた」 新世代リーダー 川村元気 映画プロデューサー(上)

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――川村さんは、映画プロデューサーとして、確たる地位を築き上げています。その意味で、前半の人生は大成功ですよね。今回の小説は、後半戦にスタートダッシュをかけるための号砲みたいなものでしょうか。

仕事をしていると、「こうやれば正解だ」というものができてくる。僕も映画をすでに14本作っています。ここまで来ると、映画の作り方にも慣れてきて、人も付いてくるようになるし、どんどんやりやすくなっていく。でも、「作りやすい」ということと、「いいものを作れる」ことは、必ずしも一致しない。

「得体のしれないことに手を伸ばす」

これは『悪人』の李相日監督がよく言っている言葉で、僕もそうだと思う。自分の知らないものに入っていくことによって、生まれるパワーがある。「わけわからないけど頑張る」ことが自分にとって必要だなと思っていた時期に、小説を書き始めてトントンと進んだ。

小説を書いてよかったのは、映画にしかできないことに、すごく自覚的になれたこと。やっぱり、何かを逆説的に考えることでしか価値はわからない。映画をずっと作っていると、映画は何を伝えられて、何が面白いのか、ということが、わからなくなってくる。

本で物語を書いてみて、「ああ映画でできることって、まだまだこういうことがあったな」というのが発見できて、今は、それがいい形で映画製作に還流するのではないかと思っています。

――その話は、海外に出ることによって、日本が初めて見えてくるというのと似ていますね。最近、モロッコに一人旅されたそうで。

モロッコ旅行はハードでした…。それでも、学生時代からずっと一人旅を続けているのは、身内のルールから出るためです。もうひとつの理由は、東京で仕事をしていたら絶対会えないような人に会えるから。

たとえば、今年東京大学に入学した大学生とか、ドイツでベビーシッターをしている日本人の女性に出会えたりすると、「あ、そういう生き方もあるんだ」と思う。そういう人たちが今の日本とか、今の映画をどう見ているかを聞くと、結構発見があるんですよね。(後編は11月13日に公開します)

(撮影:今井康一)          

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