「死を意識するため小説を書いた」

新世代リーダー 川村元気 映画プロデューサー(上)

――先ほど、母親の話もありましたけど、父親も小説の大きなテーマになっていますよね。

母親というのは、自分の中で、どんどん偶像化というか、神格化していく存在だと思うんです。母親が本当に亡くなったときに、いかに自分が母親に支えられていたかに気づくというか。

一方、父親との距離の取り方は、やっぱり30代を超えていくと、難しくなっていく。そして、残念ながら、年を取るにつれて、父親に似ていくんですよね。しかも、嫌なところが(笑)。僕はそれがすごく実感としてあって、その気持ちを同年代の人たちも共有してほしいと思ったんです。

母親というのはどんどん気持ちを残していって、一方、自分はどんどんオヤジに似ていく。すると、親が自分にバトンを渡して、死んでいくということを受け入れないといけない年に差し掛かったんだなと感じるんです。

ネガティブを考え抜く意味

――偶像化の対象である母と、自分の未来図みたいな父と、その両方を考えることで、自分がよりよく見えてくるということですか。

そうです。僕は、「父親のことは反面教師にする」と言っていたんですけど、やっぱり似てきますね。そこで、「なんで似てきたんだろう」と想像を及ばせるのが、未来を考えるということだと思うんです。

たとえば、街にドーナツ屋ができたときに、「ああ、ドーナツ屋ができたんだ」とただ思う人と、「なんでこんな所にドーナツ屋ができたんだろう」ってずっと考える人がいたとしたら、僕は後者なんです。後者でありたいと思うんです。

変化というのは、一見気づかないような形で確実に起きていて、それに気づくことが、何かものを作ることだと思うんですよね。

だから、世界から何かが消えたことを想像することによって、その価値を発見できるし、何かを失ったときに初めてその大切さがわかる。僕はそのネガティブの究極を考えることで、ポジティブを見いだすという生き方が、自分なりにフィットしているんです。その考え方や生き方を「世界から猫が消えたなら」で書いたつもりです。

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