「人材育成の8割は異動で決まる」 松井忠三・良品計画会長
--店長に任せられていた店舗運営のすべてを標準化したわけですが、現場からの反発はなかったのでしょうか?
変革に抵抗勢力は付きものだ。ベテランの店長たちは自分たちのやり方にこだわっていた。そこでかれらが抵抗勢力化する前に変えてしまった。このやり方をわたしは「ゆでがえる方式」と呼んでいる。抵抗勢力が抵抗する変革は成功しない。気付いたらゆであがっていたというように変革しなくてはならない。
どうやったのかというと、抵抗勢力になりそうなベテラン店長をマニュアル作成の部隊に入れ、店舗運営を標準化する側に配置した。
そして「MUJI GRAM」によって新入社員教育が始まり、教育された新入社員が店舗に配属されるようになって3年が経つと、店舗スタッフはみんな「MUJI GRAM」しか知らない。こうして「MUJI GRAM」の導入はスムースに進んだ。
現在の育成体系は、入社後2年目に店長代行としてのリーダーシップを発揮する、3年目は店長就任前のリーダーシップを発揮する、3年目から4年目にかけて新任店長としてのリーダーシップを発揮する、というものだ。この、人材育成プログラムは全店舗共通の「MUJI GRAM」が可能にしている。
--「本部業務基準書」は本社のスタッフ業務のマニュアルでしょうか?
その通りだ。人事、経理などの業務は非定型と考えられ、言語化・標準化している企業は少ないと思う。そして一人前になるのに時間がかかる。わたしは18年間西友に勤めたが、経理が一人前になるのに15年かかると言われていた。なぜそんなに時間がかかっていたかと言えば、1つの部門で経験を積み、上司のやり方を見ながら仕事を覚えていく「経験主義」が基本だったからだ。
こうした育成方法では、知恵や知識が蓄積されないし、専門性を身に付けるのに時間が掛かる。
「本部業務基準書」のある良品計画では、経理に配属されて「本部業務基準書」によって業務全体を把握し、2年目になるとかなりの業務をこなせるようになる。もっとも経理は専門性が高いので、できる経理になるには5年くらいかかる。それでも西友の15年と比べればスピーディに人材を育成している。
専門性の高い優秀な人材は外部から採用すればいいと言う意見もあるだろうが、わたしはそうは思わない。外から調達した人材はまもなく辞め、定着しない。人材は自前で育成しなければならない。