「人材育成の8割は異動で決まる」 松井忠三・良品計画会長

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 いろんな職種を経験させ、タコツボ型のキャリアにしないことも異動の目的だ。小売業では、商品を調達する商品部と店舗で販売する販売部が対立することが多い。商品部の「部分最適」と販売部の「部分最適」がぶつかり、会社の「全体最適」を損なうのだ。

その弊害をわたしは商品部と販売部の部長を入れ替えることで解決した。異動によって相手の立場に立つことになると、自分勝手な部分最適の考え方から脱却できるようになる。

良品計画は海外展開に力を注いでいるが、海外拠点の異動では国内の最も優秀な課長クラスの人材を派遣している。30歳前後であることが多い。

海外への派遣では、当人の語学力を重視しない。まったく英語が話せない社員をロンドンの販売部長にしたこともある。その者は半年で話せるようになった。3年のロンドン勤務後に本社に戻って宣伝販促部長になり、3年後にフランス法人の社長として赴任している。

--その他のグローバルな人事施策はありますか?

良品計画の海外店舗数は現在180だが、2012年度末に海外店舗数は214になり、5年後には海外店舗460のグローバル企業を目指している。

その時に海外事業の抵抗勢力になるのは本社だ。だが抵抗勢力予備軍も、自分が経験すれば抵抗勢力ではなく協力者になる。そこで90人の課長全員に海外経験させることにした。全員を一度に派遣するのは無理なので、毎年20人ずつ送り、4年間で全員経験させる。派遣期間は3カ月だ。

--良品計画を大胆に変革された松井会長ですが、他社人事へのアドバイスをいただけませんか?

全体最適の視点が重要だ。そのために良品計画では、部門の壁を超える異動を行って各部門のトップが部分最適の視点に陥らないようにしている。ただこのような変革には経営トップの関与が必要だ。うまくトップを巻き込んで、トップが本気になるように持っていくとよいだろう。

また改革に乗り出したら、途中でやめないことだ。たとえば、「MUJI GRAM」だが、以前にもマニュアルはあった。しかし忘れかけられていた。そこでわたしが社長になって再度徹底させた。このマニュアルの最大の特徴は、現場で常に活用される“活きたマニュアル”であることだ。店舗から上がってきた意見を取り入れて、毎月更新している。

どんな制度も、放っておくと風化する。しかし、所期の目的に沿うように改善し続け、完成度を高め続けていけば、消えることはない。

松井忠三
代表取締役会長。
1973年 東京教育大学(現 筑波大学)卒業、西友ストアー(現 西友)入社。
1991年 良品計画へ出向、1992年良品計画入社。1993年 取締役、1997年 常務取締役、1999年 専務取締役、2001年 代表取締役社長、2008年 代表取締役会長(兼)執行役員。

(聞き手:HR総合調査研究所(HRプロ)ライター:佃光博=東洋経済HRオンライン)

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